ブックタイトル教育情報No.10
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教育情報No.10
ではないか、それを受け入れた赤鬼もやはり誤った選択をしたのではないかと訝る生徒である。彼は、人を欺いて友人を助けることは果たして友情に値するかという問題を考えている。これは目的が手段を正当化しうるか否かという難問でもある。 さらに別の観点からこの資料を読む生徒たちもいる。人間と鬼たちとの関係を異文化理解や多様性社会を考えるためのモデルとして読む生徒、あるいは差別そしてそれを解消するための正義の問題として読み取ろうとする生徒である。彼らにとって、「泣いた赤鬼」はもはや「友情」や「信頼」の物語ではありえない。 上記の小学生と中学生との違いはいわば社会的な知性による違いである。それに応じて彼らは同じ話の中に異なった道徳的意味を読み取ることになる。むろん、その違いが年齢と正確に対応するわけではない。それは数学の習得が年齢と正比例しないのと同じである。しっかりした道徳的な判断ができる小学生もいれば、そうできない中学生もいる。しかし、おおよその知的な発達段階が推定され、教科書の内容がそれに従って決定されている。学習指導要領で、道徳の内容が小学生の低・中・高学年及び中学生の課題として4つの段階に分けて記述されているのもそのためである。 では、個々の小学生や中学生の道徳的段階を確かめるには、どうすればよいのだろうか。学級担任であれば自ずとわかるものだが、そうでなくても、簡単に確認する方法がある。子どもたちに行為の理由を聞いてみればよい。 たとえば、なぜ他人の物を奪ってはいけないのかと訊ねてみる。幼稚園児の多くは、親や先生が禁じているから、あるいはそうすれば叱られるからといった回答を寄せる。しかし、さらに成長すると、持ち主が困るから、自分に同じことをされると嫌だからと答える子どもや、盗みは犯罪だから、それは持ち主の権利を侵害するからといった理由を述べる子どもが登場する。 人を傷つけてはならないことや嘘を言うべきではないことを知らない人はいない。幼稚園児(*)道徳的な発達段階を明示するのは容易ではないが、コールバーグによる「従属罰志向」から「普遍的倫理原理志向」に至る6段階の発達段階論は示唆に富んでいる。彼の認知発達論について異論はあっても、行為の理由付けから導かれた発達段階は今もその意義を失ってはいない。ですら知っている。しかし、園児の知り方と小学生の知り方そして中学生の知り方と大人の知り方は同じではない。道徳の答えは同じでも、その理由(=知り方)は異なっている。それをもたらすのが社会的知性の拡大とそれに基づく道徳性の発達にほかならない。(*) このように、学校外で子どもたちがすでにそれぞれの段階で「考える道徳」を実践しているとすれば、教師にとって重要なのは、それがそのまま授業の中で言語化されるよう努めることである。その上で、子どもたちの「考える道徳」の相違や共通点について相互に確認し合うことができれば、それだけで「考え、議論する道徳」は実現する。そこで、子どもたちは様々な知り方(行為の理由)を学び、次の発達段階への展望を開くことになるはずである。社会的知性と理由の相違「考え、議論する道徳」プール学院大学教授広島大学大学院教授を経て、現職。中央教育審議会専門委員,岡山県人権政策審議会委員,広島県公益認定等審議会会長,広島市青少年と電子メディアに関する審議会会長,中国放送番組審議会委員長などを歴任。『高校倫理からの哲学』(共編著、岩波書店 2012)、『教育と倫理』(編著、ナカニシヤ出版 2008)、『岩波応用倫理学講義(7)教育』(編著、岩波書店 2005)その他、多数。著者プロフィール● 越智 貢 (おち みつぐ)07