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概要

教育情報 No.17

 昨今、防災教育の必要性は学校の先生方に随分認識されてきていますが、どのように教えてよいのかということがわからないという状況にあると思います。どのように教えればよいか、教えるコンテンツは何なのかということを求められますが、教えなければならないことはそういうことではありません。 子どもたちに知識だけで防災教育を進めようとしても、特に災害についてはその知識の範囲外で起こることが非常に多くあります。その場合、知識だけで、習ったことがないことだと行動を取れないという、マニュアルや知識に依存した行動しか子どもたちはできなくなります。規範化して、行動をこうしなさい、ああしなさいという形で教えることは間違いです。もちろん、発達の段階により、保育園・幼稚園や小学校の低学年の子どもたちは、ある程度規範化して教えることも必要だと思います。 防災教育が目指すのは、その日そのとき、災害からちゃんと命を守り抜くことができる子どもを育てるということです。災害という事象が固定的なシナリオで来るならば規範化して教えればよいでしょう。しかし、生活の様々なシーンや状況の中で、様々な形で災害が襲ってくるということを考えると、子ども自身が自ら考え、自ら持ち得る限りの知識から自ら判断し、そして行動に移せるという主体性や姿勢をどのように育むのかということが最も必要なことです。知識の教育ではなく、災害に向かい合って、自ら行動を取ろうとする姿勢を与える教育ということになります。 姿勢を与えるためには、子どもの行動の変容を起こさなければいけません。その日そのとき主体的に動く子どもを育むためには、子どもと先生のコミュニケーションも、「逃げないとこうなっちゃうよ」といった脅迫観念を与えて行動を取らせるようなものではいけません。これは、災害心理学やリスクコミュニケーションでは恐怖喚起のコミュニケーションと言われ、恐怖心をあおられて短期的な効果はあっても、長期的には何の効果もありません。逆に自分の地域の自然のことを嫌いになるなど、よいことは何もありません。 学校でどれだけ防災教育を行っても、子どもたちの日々暮らす環境がそうでないときに、その効果は期待できません。例えば、交通安全教室で手を上げて右を見て左を見て渡りましょうと教えても、先生方や大人たちは町で横断歩道を渡るときに手を上げません。そうすると子どもたちは、学校で習ったことは正しいけれど、社会というのはそんなものじゃないのだと理解してしまいます。 子どもたちがちゃんと逃げるという状態は、子どもたちを取り巻く環境によって育まれます。そうすると、防災教育は子どもたちに何か教え込んでいくというよりも子どもたちが育まれていく環境の中で語られる側面の方が色濃いと思うのです。そういう面で防災教育は、育みの環境の中で子どもたちに防災を体得させていくプログラムとして考える必要があります。 地域防災と防災教育は不可分です。地域の防災のありようが子どもたちの育みの環境そのもので、完全に一致しています。その育みの環境の一部として学校教育があって、そこが整合的であるということが必要です。学校ももちろん子どもたちにとっての育みの環境の1つなので、その機能を果たさなければなりませんが、それ以上にその地域でどのような災害が起こっているのか、地域社会がその災害にどう向かい合っているのか、子どもたちはどのように関わりを持っていくのか。その中で子どもたちは備えるということを体得していく。こういうプロセスとして防災教育を見るべきだと思います。 防災教育は、社会との関係性の中で子どもたちに与える影響がことのほか大きいと思います。特集命を守る防災教育防災教育が目指すもの東京大学大学院情報学環特任教授 片田 敏孝姿勢を与える教育育みの環境防災教育の効果02 No.17