ActiBookアプリアイコンActiBookアプリをダウンロード(無償)

  • Available on the Appstore
  • Available on the Google play

概要

教育情報 No.17

 東日本大震災から9年の月日が経過しようとしています。 私は震災当時、岩手県沿岸南部に位置する釜石市の釜石小学校で校長として勤務していました。 平成23年3月11日(金)、釜石小学校は午前授業で午後1時に下校。子ども達は家で留守番をしていたり、公園で友達と遊んでいたり、海で魚釣りをしていたり、ばらばらのところにいました。午後2時46分の巨大地震発生。そして地震発生から約30分後の大津波襲来。 下校後の子ども達はどうしただろう? 子ども達の安否を気遣いながら避難所となった学校で不安な夜を過ごしたことを今でも覚えています。翌朝から釜石小学校教職員で瓦礫の中を全校児童の安否確認に歩きました。そして発災から2日後、全校児童184名の無事を確認しました。 下校後の子ども達が全員無事のニュースは『釜石の奇跡』と言われましたが、子ども達は「奇跡ではありません。ぼく達は、学校で学んだことを思い出して、行動しただけです。実績です。」と言うのです。それならば、『奇跡ではない釜石小の軌跡』として、まずは、震災前に取り組んでいた釜石小学校の防災教育を紹介します。1 ぼく、わたしの津波防災安全マップ作り この活動は、全校児童が家から学校までのマイマップを持ち、通学路の危険な場所や津波避難場所を調べ、地図に書き込みます。それを地区ごとに子ども達が確かめて歩きます。調べたことを話し合いながら、大きなマップに付箋紙等に書いて貼ったり、書き込んだりして完成です。マップは校舎内に掲示していました。2 下校時津波避難訓練 学校から家に帰る途中や、下校後遊んでいる時に大地震が起こったらどう行動するかの避難訓練を毎年行いました。訓練の手順は次の通りです。①下校時津波避難訓練の日は、地区ごとに下校をする。下校途中に、学区内地域に地震発生のサイレン放送を流す(市防災課)。②地震発生の訓練放送が鳴ったら、まず、安全な場所に身を寄せる。③津波警報発令の訓練放送が鳴ったら、6年生がその場所から一番近い避難場所を考えて指示をし、急いで避難する。 巨大地震の後、子ども達は学校で行った下校時津波避難訓練を思い出したと言います。そして、自分が今いるところから一番近い避難場所を考え、避難したそうです。3 津波防災授業 津波防災の授業は、当時、群馬大学の片田敏孝教授(現東京大学特任教授)チームにご指導ご協力をいただき、釜石市内の先生方が「釜石市津波防災教育のための手引き」を作成しました。授業の中には、スマトラ島沖地震の映像や、過去の三陸大津波の浸水区域や、50㎝の波でも人は流される映像等を用いたインパクトの強い授業を各学年の発達段階に合わせて行いました。 あの大津波で、家の周りにすでに膝くらいの高さまで波がきていた中を逃げようとした弟に、学校で習った「50㎝の波でも人は流される。」ことを思い出し、外には出ずに家の屋上に避難した兄弟がいました。兄弟の母親が「先生、うちの子の命があるのは、学校の防災教育のおかげです。」と話してくれました。  このように、釜石小学校の軌跡=防災教育は「津波防災安全マップ作り」「下校時津波避難訓練」「津波防災授業」の3つですが、単にこの防災教育だけで子ども達がその場で判断し、行動できたとは思っていません。子ども達の命を救ったものは何なのかを考えてみたいと思います。特集命を守る防災教育大津波を生き抜いた子ども達の奇跡ではない軌跡から学ぶ岩手大学教員養成支援センター特命教授 加藤 孔子奇跡ではない釜石小の軌跡04 No.17