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概要

教育情報 No.17

 黒潮町は2006年に、大方町と佐賀町が合併して誕生した。大方町の由来は海に面した大きな干潟(大潟)である一方、佐賀町はカツオの一本釣りが有名な町であり、昔から私たちの先人は海と共に暮らしてきた。海は恵をもたらすものと信じて疑わなかった私たちに、時に海は大きな災いをもたらす怖いものということをまざまざと見せつけたのが、2011年東日本大震災の津波の映像である。 その結果、翌年2012年3月31日に内閣府中央防災会議から発表された南海トラフ巨大地震による震度分布、津波高の推計値、いわゆる「新想定」では、黒潮町における最大津波高は34.4メートルとされ、さらにその数値に日本一という称号まで付けられた。 その衝撃的な数値を受けて、しかし、役場には住民から一本の電話もかかってこなかった。みな、避難をあきらめたのである。 ここから、「あきらめない」という思想と行動規範を確立し、「避難放棄者」を出さない、そして地震・津波災害から犠牲者を1人も出さない「犠牲者ゼロ」への挑戦が始まったのである。 2012年度から当町の小中学校には年間10時間以上の防災学習と、年6回以上の避難訓練の実施を義務付けている。2014年度からは群馬大学大学院教授(現東京大学大学院特任教授)片田敏孝先生の指導を仰ぎながら、3年間をかけて町独自の「津波防災教育プログラム」を開発した。 最大の特徴は、「命の教育」を土台に据え、知識としての災害メカニズムや地域の災害の危険性を教えるだけでなく、また逃げることを目的とした脅しの防災教育ではなく、自然には恵みと災いの二面性があることをしっかり理解させ、郷土愛を育みつつ自然災害から自分の命、他者の命を守る生きる力を身につけさせることである。 小学校低学年では自分の命に関わること、中学年では家族の命に関わること、高学年では他者の命に関わることを理解し、中学生においては、災害文化の継承に貢献する素養を身につけることを大きなねらいとしている。 学校における防災教育は、教科や日常の学校活動と乖離してはいけないし、何よりも防災教育を通じて学校教育の最大の目的である「生きる力」や「確かな学力」が育まれなければならない。 黒潮町の防災教育は「命の教育」を土台に、防災教育を超えて、人としてどう生きていくのかを学ぶ人間教育を目指す。防災教育で自然災害の恐ろしさを教えるだけでは、ふるさとを嫌いになるだけである。 中学校では、生徒が自主的に取り組む防災委員会の活動が目覚しい。生徒が地域の要配慮者宅を個別に訪問し、防災意識の調査を行った結果、身体的障害や厭世観などの精神面から、避難訓練への参加が厳しいと思われる住民に対して、町の総合防災訓練の際サポートを行った。 これまで一度も地区の避難訓練に参加したことがなかった要配慮者が、中学生と一緒に参加することで、「次からも参加する」という意欲を見せ、周囲の住民からも「久しぶりに顔を見た、訓練で会えて嬉しい」などの声があがった。特集命を守る防災教育「命の教育」を土台とした黒潮町の防災教育黒潮町教育委員会教育長 畦地 和也最悪想定からスタート要配慮者サポート訓練「命の教育」を土台にしたプログラム06 No.17