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概要

線 Line No.9

ーご自身が詠んだ句について、思い出に   残るエピソードはありますか? 私の作品で〈咲いてまた逢いたい人の名を想い〉という句があります。これは十年以上前に、満開の桜を見て詠んだ恋の句なのですが、特に神戸や阪神間の方から「阪神・淡路大震災に寄せて詠まれたものですか?」と聞かれることが何度かありました。私としては個人的な恋の句として詠んだものが、人によっては世の中の大きな出来事と絡めて味わってくれたのだと思うと、すごく驚きで。「咲いてまた」は一度散ってしまった、失ってしまったものに改めて出会う、生まれ変わる…そういう時に一緒に乗り越えた人のこと、会えなくなってしまった人のことを思うという風にも取れるのかと。 自分が詠んだ句を手放した瞬間、受け取ってくれた方が物語や彩りをつけてくれるんだなと思うと、句を詠むことって見えないつながりを持てることなのかなという発見をしました。ー川柳を通した活動が、文化庁の文化審   議会委員につながっていくのですね。 そうですね。文化審議会では、今、文化芸術推進基本法をより一層豊かなものにするための話し合いをしています。それは二〇二〇年のオリンピック・パラリンピックに向けて、スポーツだけじゃなく、日本の文化力・芸術力を底上げしていこうという目標を持って進めています。例えばロンドンオリンピックはその色合いが強かったようで、イギリスは昔から文化力のある素晴らしい国ですが、今の時代に合ったものも含まれて、さらに文化力が底上げされたそうです。そういうことを日本も目指そうということになっています。 その中で私が興味深いなと思ったのは「日本の風土を大切にしながら」という一文が、全体の枠組みを説明する文章の中に入っていることです。風土という言葉、とても興味深いですよね。日本の津々浦々、大なり小なりの伝統文化や言葉に焦点を当て、すくい上げていくというイメージが浮かび上がります。そういった文言が文中に見られるのは、一度立ち止まって古き良きものをもう一度見直してみましょうということが含まれているのかな、これまで私がやってきた活動と絡めていけることがあるのではと気づかされます。ー日本各地には、その土地特有の文化や   言葉使いがあります。 例えば、全国の小・中学校を「言葉について考えるワークショップ」で回ると、いわゆる方言よりもさらに限定的な、その地域独自の言葉を耳にすることがあります。そこで、二世代・三世代遡った方々が使っていた言葉に注目して、地域の方に聞いたり、図書館で調べたりしておいてもらったりして「その言葉を使って五・七・五で表現してみましょう」と川柳へ結びつけることが可能です。その風土を実際に感じながら、古き良きものを織り交ぜて表現する楽しさを味わうことにつながります。 また、私は二〇〇九年から文化審議会国語分科会の委員もさせていただいています。当時は常用漢字表の改訂に取り組んでいましたが、現在はコミュニケーションと言葉(日本語)を検討しています。私が携わっていることでいうなら、川柳や俳句には句会があります。一人で作って楽しむのではなく、自分の作った五・七・五を見せ合って感想や意見を言い合ったり、時には句を一緒に作って考えたりするなど、言葉でコミュニケーションを取る場所なんですね。このような文芸の魅力が何かのヒントになるのではと考えています。ー句会は、小学生でも可能ですか? 可能です。友だちの作品について感想や意見を述べるのは、とても気を使うことですが、自分が感じたことを素直に伝え合うことはお互いに大切なことであり、言葉のチョイスの仕方も勉強になるのではないでしょうか。句会に初めて参加する方や不慣れな方は、感想を求められてもどう表現すればいいかわからず、他の方が聞いていると思うと、思ったように言えなかったりするのですが、慣れてくるとほめ方もアドバイスも上手になります。ディベート力がつくのでしょうね。川柳を楽しむ場で様々な表現力を養うことができるとしたら、一石二鳥です。代表作の川柳を色紙に書いていただいた。文字と文字のバランス,紙面全体の雰囲気を大切にする。04