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概要

ROOT No.19

体を見通す力にもつながります。かまもとくにしげサッカー界の往年の名選手,釜本邦茂さんは「後ろに目がある」といわれていました。まるでフィーわたルド全体を見渡しているように,後方の空きスペースにパスを出せたのです。自分のまわりにいる相手チームの選手の人数やメンツから,フィールドいっしゅんえがの状態を一瞬のうちに思い描くことができたのですね。空間的に全体を見通す力が,経験と勘で身についたのでしょう。こうしたコミュニケーション力や全体を見通す力は,今後,世の中でますます重要になってくるでしょう。ふく――自分を含めて全体を見渡すようになるにはどうしたらいいんですか?どれだけ外に出て,いろんな世界を経験し,人間関係にもまれてきたかにつきると思います。いへいがいまは情報化社会の弊害もあって,経験が不足しがけんさくちなことを心配しています。検索機能を使えば,すぐに知りたいことを調べられます。それで何でも知っている,経験した気になってしまいますが,それは「生きた情報」とはまったくちがうものです。おそ失敗を恐れず,自分から行動し,経験しなければ「生きた情報」は得られません。失敗はムダではない!10年,20年後の宝物だ――失敗はしないほうがいいのでは?失敗しないと学べないこともあるでしょう。失敗は,いまはムダに思えるかもしれない。けれど,10年,20年たったら宝物になります。そういうことも含めて時間軸を設定すれば,ムダな経験などありません。日本社会には,失敗した人にペナルティを課す風潮がありますが,「どんどん失敗して学んでこい」と認める風土があれば,もっと日本は変われるのではないでしょうか。――先生は今後数学でどんなことを解決していくんですか?近著『誤解学』では,コミュニケーションの渋滞の原因や仕組み,解消方法などについて,数学を使って考察しています。わたしの場合,車の渋滞,物流,コミュニケーションなど,あらゆる分野について考えるとき,土台となるのが数学です。数学という強力な武器で,社会の難問を解決していきたいと願っています。――ありがとうございました。西成活裕(にしなりかつひろ)東京大学先端科学技術研究センター教授。専門は数理物理学,渋滞学。文部科学省「高等学校の数学・理科にわたる探究的科目の在り方に関する特別チーム」委員。『渋滞学』(新潮選書)で講談社科学出版賞などを受賞。『とんでもなく役に立つ数学』『とんでもなくおもしろい仕事に役立つ数学』(ともに角川ソフィア文庫),『無駄学』『誤解学』(ともに新潮選書)など著書多数。とんでもなくおもしろい仕事に役立つ数学(角川ソフィア文庫)著書紹介とんでもなく役に立つ数学(角川ソフィア文庫)算数・数学情報誌ROOT vol.19 5