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概要

ROOT No.21

 算数の学習では,言葉や数,式,図など,さまざまな表現を用いて,筋道を立てて考えたり,その内容を他者に分かりやすく説明したりすることがあります。ここでは,そうした例として,事象と関連付けられた式の意味を記述できるかどうかをみる趣旨で出題された,平成28 年度全国学力・学習状況調査算数B5( 1)を見てみましょう(図1)。 問題は,三角定規を使って正多角形を構成的に学ぶ場面で,「360 ÷ 120 は,どのようなことを計算しているのか」を問うものです。式自体は易しいのですが,正答率は7.0% でした。なぜこのような正答率になってしまったのでしょう。 まず,当該調査の『報告書』を見てみますと,の3つを書いていることが正答基準として設定されています。要は,360 と120 がそれぞれ何を表しているかに加えて,360 ÷ 120 の「÷」がどういうことをしようとしたのかが書かれていないと正答にはならないのです。具体的な正答例としては,①②に加えて,③として「360 ÷120 は,360°の角の中に,120°の角がいくつ入るかを計算している式です」のような記述が求められるというわけです。 ところが,実際の反応率では,③を書いていない児童が非常に多いことが分かります。①②しか書いていない児童は21.7%,①しか書いていない児童は13.8%,②しか書いていない児童は14.4%で,合計は49.9% となり,ほぼ半分の児童が③を書かずに誤りとなっています。 しかし,この正答基準の下で誤答になった約半数の児童は,この式の意味が全く分かっていなかったのでしょうか。多分,実際の授業のように教師とのやり取りが可能であれば,他者が提示した「360÷ 120」の意味でも,かなりの児童が,つたないなりにもそれなりの説明が可能になるのではと思います。おそらく,③の記述ができなかった(あるいは,しなかった)児童の多くは,口頭での説明と記述での説明の区別(特に,後者についての理解)が曖昧で,式・演算の意味についての理解も曖昧であったため,式が表す事象や手続きについて,算数・数学で求められるような説明を書くことができなかったのだと予想されるのです。 この全国学力・学習状況調査問題の正答率を見ても分かりますように,児童にとって,事象と関連づけられた式の意味を記述することは難しいようです。それは,式という簡潔で分かりやすい表現で記述されている事象を,式との対応関係を明らかにしながら,あえてできるだけ曖昧でない形で読み解いていく作業だからです。しかも,問題では,それらを,口頭・対面ではなく,わざわざ面倒な書き言葉で書いて,説明し直す作業でもありましたから,なおさら難しかったのでしょう。 しかし,(実際には書かなくても)そうした作業こそが,算数・数学での理解を伴った式の読みや説明とも言えるのです。それ故,そうした読みと記述の指導は,私たち教師にとってなかなか難しい課題になります。例えば,L字型の図形の面積を求める学習場面を例にして考えてみましょう。 まず,図2の「ひろとさん」の説明でも,教室では,「どのように考えたの?」「3×4の3はどこを指すの?」と問えば,口頭でのやり取りや実際の指事象と式を関連付け,式の意味を説明する活動●愛知教育大学教授 山田 篤史2 事象と関連づけられた式の意味の記述1 児童は式の意味を記述できるのか① 360 が,1回転した角の大きさを表していること② 120 が,?の角の大きさを表していること③ 被除数は除数の幾つ分かを計算している式であること12   算数・数学情報誌 ROOT No.21