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概要

ROOT No.21

1969 年東京生まれ。アーティスト。東京造形大学卒業後,イギリス,ロンドンのArchitectural Association School of Architecture に在籍して建築を学び,建築家の江頭慎に師事。2001年9 月11 日より独学にて紋様の制作を始める。「繋げる事」をテーマに美術,建築,デザインの境界を越えて活動。定規やコンパスで描画可能な紋と紋様の制作をはじめ,同様の原理を応用した立体物の設計/制作も行っている。2016 年より東京大学工学部建築学科非常勤講師野老 朝雄(ところ あさお)幾何学的なものは自由な見方ができます。味が持てなかったですね。父の事務所や現場に連れて行かれるのは断然楽しかったですね。職人さんに怒られたり,なにかもらったりもしました。――野老さんの作品については,さまざまな理解  のされ方がありますよね。 幾何学って見ることに関しては本当に自由だと思います。たとえば小さい子どもを見ていると,ティッシュの箱を使って「ガタンゴトン」と言って,それは電車ではないけど電車が走っているように見立てて遊んでいますよね。でも大人だとこれは電車ではないということを教え込まれてしまっているというか…。おままごとなんて全部「見立て」じゃないですか。娘が3 歳くらいで、まさにそういう遊びをするんですが,僕に毛糸を渡してくれたときに「おいしそうなスパゲティだね」って言ったら「うどんだよ! なんでそんなこともわかんないの?」と言われ,あわてて「ごめんごめん,うどんです」と,謝るみたいな(笑)。見えないものを見る力って子どもにはあると思うんですよね。 僕の作品についても,遠い将来に賢い方がその人の見方で解説してくれたら,と思います。「これしかない」ではなく,「これはある」と考えること。――建築を学んでから美術の世界へ進んだわけで  すが,これからの展望についてお聞かせくだ  さい。 2001年9月11日のNY のテロから本当に何かが憑ついたような感じで,模様を作り始めたんです。でも,そのときは何も考えずにただ描いていました。後で考えたら紋様というものなんだと思ったくらいです。こんな大きなテロが起きて,これはマズいという思いだけが自分を突き動かしていたような気がします。そのころは引きこもり状態で,狭い自宅に紙とえんぴつくらいしかない。本当はコンピュータもあったのですが,それに気付いたのは後になってからです。その状態を,紙とえんぴつ“ しかない” と思うか,紙とえんぴつ“ は,ある”と思うかでずいぶん違いますよね。そのときは「紙とえんぴつがそこにある。それでなにができるか」と考え,手が動き始めてしまったんです。 数学の知識であったのは,15°という概念は知っている,3 つ合わさると45°になるでしょとか,三角形の内角の和は180°であるとか,そんな簡単なことだけでした。でも,その「ものも知識もほとんどない」というコンディションがよかったんだと思うんです。 それから仕事や作品,プロジェクトを通して建築家や数学家の方に出会ってきました。たとえば,《KumaponG》とコラボレーションして《KumaponGome(クマポノーム)》という映像作品をつくられた松川昌平さんは建築家であり,アルゴリズムの研究をされているかたです。舘知宏さんも建築家ですが,折紙工学,折紙の幾何学とアルゴリズムの研究をされています。僕自身は数学が得意なわけではありませんが,√3の美しさに魅了され,15°を愛しています。彼らのような天才を集めて,美を追求し,100 年先まで保つものをつくれるのではないかなと思います。――多くの方とのつながりの中に,野老さんがい      ることを感じられました。ありがとうござい  ました。算数・数学情報誌 ROOT No.21 5