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概要

ROOT No.21

【中西】 統計を学んだ人はどの分野でも必要とされていますし活躍できるのですが,特に教える人,教育者が足りていないと感じています。これまでは統計学者が統計教育の必要性を訴え,教育分野へ流れてきましたが,彼らはもともと教育の専門家ではありません。中学校の先生たちが頑張って統計教育の勉強をされていますが,新課程の授業に間に合うのか心配です。統計学を学べる大学は増えています。滋賀大学にもデータサイエンス学部ができ,今後は横浜市立大学にもできます。しかし統計学を教える技術を学ぶ所ではありません。いま必要な人材は,「グラフの見方や作り方」から【西仲】 生徒は,統計の授業の方がやる気を見せます。自分にとって身近な事だからでしょうか。数学は抽象的になっていくので,どこかでつまずいた子はついていけなくなります。でも,データは具体的でわかりやすく,簡単な+-×÷ ( 四則演算) だけで情報の見える化ができ,数学の中で一番扱いやすいからでしょう。あとは,このような生徒の反応を,教える側が楽しめるかどうかの問題になってきます。先生ご本人も生徒も楽しいというのが理想です。【須藤】 それは私も経験があります。数学の他の内容が分かっていなかった生徒が,統計に入った瞬間に授業をちゃんと聞くようになりました。確率・統計が好きな生徒と,数学の成績のよい生徒とは必ずしも一致しません。ふだん算数・数学はキライだと言っている生徒が,確率・統計の授業では目が輝きだし,三学期の成績は良かったという事もあります。【西仲】 統計の授業では生徒が自分の主張を通すのに,数値,データを使って論理的に説明できるようになる事が面白いのではないかなと思います。 教師の方も面白さを感じる事があります。統計の授業で「2つの群のデータを比べて,あなたはどちらを選択するか」という課題に取り組むとき,自分たちは普段何を良いと考えて物事を判断しているのだろうか,そういう判断材料となる価値基準,価値観をどう基準化させていくか,数値で表していくかというところで議論が生まれるのが面白いです。最近はいろいろなセンサーなどの器具を使ってさまざまなものを数値化させることもできるので,それをもとに基準化させて考えたりもできます。そういった自由度の高さがあるところも統計の良さだと思います。【須藤】 私が以前,バレーボール部の顧問を担当していたとき,統計を導入した面白い経験をしました。ボールを自陣から相手に返すとき,向こう側にはリベロというレシーブの上手い選手がいるから,リベロにボールを返しちゃダメだとされていました。しかしデータをとってみると,リベロにボールを返すと,相手チームは100%に近い確率でAクイックをしてくることがわかりました。これがもし相手陣地のリベロ以外のところにボールを返すと,予想できない場所に打ち込まれてしまう。しかし,相手の一番得意なところにボールを返せばボールが飛んでくる場所が特定できる。だから,そこにブロックを3枚つければよい,と。この策が当たりました。 この経験から,控えの選手を含め全員に役割を与えてデータを取らせました。あなたは相手チームのここを見てとか,あなたは何番の選手を見てねとか指示して。そして作戦タイムで,情報を選手に伝えました。この作戦で,その年はいいところまで行きました。今はバレーボールもデータを使うことが当たり前の時代ですけど,このようにデータがすごく使える例が教育現場にはまだ沢山あるんじゃないかと思います。このようにデータを使うと今までは見えてこなかったものを見るのに役立ちます。データ収集・分析に巨額の投資をしても,それ以上のリターンがあるので各企業が注目しています。統計教育の良いところ統計を学んだ人を必要としている場算数・数学情報誌 ROOT No.21 7