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概要

ROOT No.22

 特別支援教育を学んだ先生方には,「課題分析」という考え方がおなじみだと思いますが,教科指導の中にもこのような視点は取り入れるべきだと思います。 例えば,カップラーメンを作って食べるという行為を考えます。 カップラーメンを作るためには,まず梱包してあるフィルムをはがし,紙のふたを適度な位置まで開け,中から薬味の小袋を取り出します。また,その薬味を入れるタイミングを間違えないよう把握します。すぐに入れる薬味の小袋をこぼさないように開けなければなりません。もしかすると,その前にお湯を沸かしておくべきかもしれません。3 「課題分析」という視点そのためにはやかんに水を汲み,火をつけて…。このような一つひとつの「課題」のうち,どれか一つでもできないことがあれば,カップラーメンは食べられません。 最終的な結果である食べられないという事実だけを捉えるのではなく,どの「課題」がクリアできていないのかを「分析」し,その点に直接的な助言をすることが「課題分析」のポイントです。小袋を上手に開けられない子どもには,はさみの使い方を指導するといった一つひとつの積み重ねが大切です。 さて,算数・数学教育においても,問題が解けないという最終的な結果のみに目を向けてはいないでしょうか。はたして一人ひとりの子どもが,何が原因でゴールにたどり着いていないのか,何を身につければ先に進めるのかを把握して助言しているでしょうか。 例えば,作図でつまずく子どもには様々な課題が考えられます。 作業中の記憶を一時ためておくワーキングメモリという機能が弱い子どもは,先生が作図の手順を見せても,なかなかその通りにはいきません。手順が2 段階,3 段階と進んでいくと,もう初めに何をしたかがわからなくなってしまいます。そこで,黒板にコンパスや定規で引いた線の脇に手順の番号をふっておくだけでも,作業がスムーズになることがあります。うっかり聞き漏らしてしまった子どもも,余計な質問をしなくてすみます。 また,コンパスを使う時,不器用な子どもは無駄に時間をかけてしまいます。ワークシートのレイアウトを工夫してやりやすい位置に解答欄を作ってあげるとよいでしょう。 このように,学びの本質以外の課題に無駄なエネルギーをかけて,貴重な時間を浪費しないようにする工夫こそがユニバーサルデザインの効果でしょう。いの授業はあるはずです。その時に,クラス全員に電卓の使用を認めれば,学習効果が上がります。これは,学びのユニバーサルデザインの一つの例といえます。全員に電卓の使用を認めたからといって,実際に全員が使うわけでもありません。暗算の方が早い場合は使用しないという選択を子ども自身がすればよいことです。 私の経験上,授業時間があと5 分あれば,発展的な課題に触れさせるなど,全く質の異なる展開が可能です。算数障害のある子どもや計算の苦手な子どもへの配慮のための電卓の使用により,その5 分間を捻出できれば,むしろ学習に余裕があって授業がつまらないと思うような子どもに発展的な学習の機会を与えることもできます。 時として,障害のある子どもへの支援は他の子どもにとっても便利という言い方をすることがありますが,その程度の考え方では,実際にさほど大きな効果にはならないと思います。障害のある子どもが,他の子どもと対等に学ぶことを保障し,さらに発展的な学習に向き合えるようにユニバーサルデザインの構築をしたいものです。 中学生になると,自分だけ特別な配慮を受けることに抵抗を示す子どもも増えます。ある子どもだけという状況を顕在化させないための工夫は,障害のある子どもの気持ちに寄り添った対応だと思います。むやみに劣等感を覚えさせないよう留意しましょう。● 学びの本質ではない部分の負担を軽減する。● 子どもの気持ちに寄り添った対応をする。● 一人ひとりのつまずきの原因を把握する。本稿の ポイント算数・数学情報誌 ROOT No.22 11