ブックタイトルROOT No.23
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ROOT No.23
博士がくれた数学の美しさと思いがけない出会いH e l l o ,Mathematics!80分しか記憶がもたない数学者の「博士」と,博士の家政婦となった「私」,そして私の10 歳の息子「ルート」。3人が紡ぎ出す,驚きと歓びに満ちた日々を描いた小説『博士の愛した数式』は,発刊から15 年が経った今もなお,多くの読者に愛されている一冊です。数学が好きな人だけでなく,そうでない人をも惹きつける『博士の愛した数式』の作者,小川洋子さんに数学や小説の魅力について語っていただきました。――どうして数学や数学者をテーマにした小説を 書こうと思ったのですか? ある教育番組で,数学者の藤原正彦先生が天才数学者たちの生涯についてお話しされていたのを見たのが始まりです。そのときの,藤原先生の数数学にも文学が隠れていると感じたことがこの小説の出発点です。作家小お川がわ 洋よう子こ学や数学者の捉え方が非常に文学的だったんです。ある人間が,誰も知らない法則を発見することがどんなに素晴らしいか,発見された数学の法則がいかに美しいか,藤原先生は情感豊かに表現されていました。数学では「美しい」という言葉は使わないだろうと思っていたので,驚いたことを覚えています。そのときはまだ数学をテーマに小説を書こうとは考えていませんでしたが,藤原先生の書かれた本や数学者の伝記を読んでいるうちに,数学にも文学が隠れていると感じ,もしかしたら数学を扱った小説が書けるかなと思い始めました。 また,数学的発見の多くが「今すぐに何かの役に立つかわからない」というところも,素晴らしいと感じています。「今これがあれば世の中の人が助かる」とか,「お金を儲ける」といった,目先の効果や利益を求めることとは違った価値観で,人間が努力していることが尊いと思います。もしかすると,何の役に立つかわからないと思っていた数学的発見も,発見者が死んだ後に実はとても役立つものだったとわかるかもしれません。そんなところもまた文学に近いと思いました。このように,役に立たないと思われていることにも「美」を見いだせるのは,人間にしかできないことだなと思います。2 算数・数学情報誌 ROOT No.23