ブックタイトルROOT No.23
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ROOT No.23
――今後,どのような小説を書いていきたいですか? どんな題材と出会うかで,小説のテーマは全然違ってきます。偶然の出会いなので今後のことはわからないのですが,常に心をからっぽにして,何が入ってきても先入観なしに受け止められるよう,何にでも驚ける心を持っていたいなと思っています。 振り返ってみると,自分がこれまでに読んできた本は,全てが繋がり合っていると感じます。子どもの頃にこたつの中で夢中になって読んだ本も,新人賞の選考会で読んだ候補作も,自分の記憶の中で繋がり合っているのです。どの一冊として置きざりにされている本が無いのが不思議で,自分の非常に大事な部分を読書が作っている感じがします。どんな本からも得るものがありました。読――小説では数学の問題をじっくり考える場面が ありましたが,これにはどのような意味が込 められていますか? 小説を書くようになって気づいたことですが,本当に大事なことは,後になってからわかるのですよね。小説を書き終わってから,「そうか,ルートってそういう意味もあったのか!」と気づくこともありました。このような体験を大人になる過程で積み重ねてきたので,なんでもすぐにテキパキできない子を切り捨てないでほしいと思います。 小説の中で,博士は問題を解くとき絶対に急かしません。早くしなさいと強制しないのです。これは,私の子育ての反省から出てきた教訓でした。子育てをしていた頃,なぜ私はあんなに早く早くと言っていたのか,私は何に追い立てられてい?本当に大事なことは,後になってからわかる。急かされない場所が子どもには必要だと思います。読んできた本は全て繋がり合っている。偶然の出会いを大切にしていきたいです。?たのかと思います。今振り返ると,全くわからないのです。 数学はじっくり考える必要のある代表的な学問だと思います。フェルマーの最終定理を証明した方も,一生涯かけてあの定理のことを考えていたわけです。数学者の中には,生涯をかけても証明しえなかった方もたくさんいました。しかし,そういう人々の研究をもとに,数学の発展はなされてきたのです。 子どもには,じっくり考えても時間がかかっても,決してマイナスにならない場所が必要なのかもしれません。ルート君は幸せなことに,博士と一緒の時間はそれが許されていました。また,成果主義の慌ただしい社会の中で,せめて親くらいは「こんなことをして何になるのか」と疑問を感じるようなことにも,実は意味があると認めてあげたいですね。現実にそういう場所がなかなか無いときは,いろいろな本を読んでいただきたいと思います。本の中には違う時間が流れていますから。岡山県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。2003 年『博士の愛した数式』がベストセラーになる。本書は第一回 本屋大賞,第一回 日本数学会出版賞などを受賞。発刊部数は273 万部(2018 年8 月時点)主な著書に『ホテル・アイリス』『沈黙博物館』『アンネ・フランクの記憶』『薬指の標本』『夜明けの縁をさ迷う人々』『猫を抱いて象と泳ぐ』『琥珀のまたたき』などがある。小川 洋子(おがわ ようこ)むことも書くことも,全てがまた書くことに繋がっていく,ありがたい仕事だと思います。算数・数学情報誌 ROOT No.23 5