ブックタイトルRooT No.24 2020年度版「小学算数」教科書特集号

概要

RooT No.24 2020年度版「小学算数」教科書特集号

学習指導要領の改訂で新設された「データの活用」領域。「なんだか難しそう…」「うまく授業できるか不安…」と思っている先生もいらっしゃるのではないでしょうか。そこで，2020 年度版『小学算数』の監修者で，新学習指導要領の専門的作業等協力者でもある清水紀宏先生に「データの活用」領域についてお話をうかがいました。新設「データの活用」領域に迫る！福岡教育大学教授清水 紀宏先生I N T E R V I E Wちなみにメモ今回の学習指導要領の改訂で新設された内容は，新学習指導要領解説p .12～15の下線で示されている事項です。「データの活用」領域だけでなく，他の領域についても新設内容を確認することができます。新設「データの活用」領域に迫る！3年上p.764年上p.446年p.184?185 6年p.186 ?191?? どうして「データの活用」領域が新設されたのですか？　現代社会は，蓄積した膨大なデータを活かし，経済活動を行う世の中になってきています。そういう社会背景から，統計的なリテラシーを国民が持つべきだということで，「統計教育の充実」が学習指導要領改訂の大きな方針の一つとなりました。　また，OECD（経済協力開発機構）がPISA調査という学力テストを行っているんですが，その中で非連続テキスト（表や図，ダイヤグラムなどを含んだ文章）の問題が出て，日本は成績が思わしくなかったということもありました。そういったことも統計教育の充実の背景にあると思います。　こうした動きから，今回の改訂では小・中・高と12年間を通す形で「データの活用」が掲げられました。これは，非常に意義が大きいことだと思っています。高校教育までを見据え，小・中学校で何をどの程度やるかということが考えられたのでしょう。　また，これまでも小学校では「数量関係」，中学校では「資料の活用」という領域を中心に統計的な学習はありましたが，共通の領域として「データの活用」を改めて設けることで，「統計教育に一生懸命取り組むんだ」ということを打ち出しているのだと思います。学校現場としても，領域という一つの柱が立ったことのインパクトは大きいのではないかと想像します。?? 領域の新設によって，これまでまったく指導してこなかった内容が追加されるのですか？　「データの活用」領域で扱う学習内容は，基本的にはこれまでも「数量関係」領域で扱ってきた内容が中心です。今までの学習から劇的に変わるというわけではありません。　新しい学習内容としては，中学1年から小学6年に移行された代表値としての「中央値，最頻値」や「階級」があります。もう少し細かい内容をいうと，3 年に「複数の棒グラフ」や4年に「複数系列のグラフ」といった複数のグラフを組み合わせること（次頁左上参照），5・6 年に「統計的な問題解決の方法」が入ってきました。　ただ，4年の複数系列のグラフのように，新学習指導要領から新たに追加された内容でも，教科書には以前からプラスαとして入っていた内容もあります。北半球（奈良市）と南半球（キャンベラ）の気温を別々のグラフにするのではなく，同じ座標に表すと，グラフの形が逆に見えるところがおもしろいですね。領域の新設は，「統計教育の充実」に力を入れることへの強い意思表示です。「データの活用」領域の新設で，新しい内容が大幅に増えるというわけではありません。表やグラフを多面的・批判的に捉え，結論をみんなで探していくことを大切にしてください。?? 新しく入った学習内容で，特に注目すべき内容は何ですか？　今回の学習指導要領改訂では，領域の新設もさることながら，5・6年に新たに入った「統計的な問題解決の方法」にも注目です。統計的な問題解決の方法は，「問題（Problem）－計画（Plan）－データ（Data）－分析（Analysis）－結論（Conclusion）」という5段階からなっており，頭文字をとってPPDACともいいます。新しい内容なので，新版教科書では特設ページを設け，PPDACについて非常にていねいに扱っています。特に6年は，「クラスのマスコットをきめよう」というテーマの学習マンガを使うことで，子どもたちにとってわかりやすい紙面にしていますよ（下参照）。　思考力，判断力，表現力等の観点からいうと，5年では「多面的に捉え考察すること」，6年では「批判的に考察すること」を重視しなければなりません。統計に関わる学習では，みんなが納得できる結論が一つでないこともあります。また，学年が上がるほど子どもたちが使える表現方法や，表やグラフを見る視点は充実してきます。表現のしかたやデータの取り方，問いの立て方などを見直しながら，PPDACのサイクルを回していくことが大切です。10 　 算数・数学情報誌 ROOT No.24 算数・数学情報誌 ROOT No.24 11