ブックタイトルRooT No.24 2020年度版「小学算数」教科書特集号

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RooT No.24 2020年度版「小学算数」教科書特集号

▲図1:平成24 年度全国学力・学習状況調査 中学校数学B問題 1▲図2:レーンのスタート位置に関する教材(文部科学省,2018,p.105)正答率63.7%正答率11.8% 平成24 年度全国学力・学習状況調査の中学校・B問題 1 では,国際宇宙ステーション(以下,ISS)と気象衛星ひまわり7号(以下,ひまわり7号)の高さの違いや軌道の長さの違いを考察する問題(図1)が出題されています。 まず,(1)は,地球儀を地球に見立てた上で,ISS が地球儀の表面から1cm の高さを回っているとした場合に,地球儀の表面からのひまわり7号の高さを問う問題です。この問題では,ひまわり7号の高さをxcm とすれば,例えば,「400:35800=1:x」といった比例式をつくることによって,約90cm(選択肢エ)という答えを得ることができ 以上の調査結果は,文字式の指導について,数学的な結果を事象に即して解釈し,数学的な表現を用いて説明する活動を充実させることの重要性を示唆しているように思います。 (2)については,誤答に関する次の2つの結果も注目されます。第一は,選択肢アを選んだ生徒の割合が53.9%にも及んでいることです。11.8%という低い正答率もふまえると,計算結果である「70800 π」に文字r が含まれていないことを根拠にして,軌道の長さの差が地球の半径r に依存しないことを解釈できていない生徒の実態が浮き彫りになります。第二は,選択肢イを正しく選びながらも,その理由を適切に説明することができなかった生徒あるいは無解答だった生徒の割合が13.5%であったことです。第一のこととも関連して,判断の理由や根拠を数学的な表現を用いて説明することにも課題があるといえます。 こうした生徒の実態や課題をふまえ,2017 年に告示された新しい中学校数学科学習指導要領の解説では,第2学年におけるA(1)「文字を用いた式」のイ(イ)「文字を用いた式を具体的な場面で活用すること」の教材例として,トラックのレーンのスタート位置を考察する教材(図2)が新たに示されています(文部科学省,2018,pp.104-105)。 図2において,例えば,各レーンの幅を1m,最も内側にある半円部分の半径をr m,直線部分の長さをa m とすると,第1レーンと第2レーンの内側の周の長さの差は,次のようになります。 { 2a+ 2π( r+ 1)}-(2a+ 2πr)= 2π(m)●鹿児島大学教授 山口 武志2 授業改善のためのヒント 「数学的な結果を事象に即して解釈し,説明する問題」の達成度1●参考・引用文献文部科学省・国立教育政策研究所(2012).『平成24 年度全国学力・学習状況調査:中学校数学』.文部科学省(2018).『中学校学習指導要領(平成29 年告示)解説 数学編』,日本文教出版.ます。この問題の正答率は63.7%であり,与えられた情報から必要な情報を適切に選択し,処理することに課題があると指摘されています。 (2)は,ISS とひまわり7号の軌道の長さの差に関する計算結果を解釈し,説明する問題です。軌道の長さの差を求める計算過程は枠内に示されており,計算結果を事象に即して解釈し,説明できるか否かという点に焦点が当てられています。つまり,地球を半径r km の球とみなしたとき,ISSとひまわり7号の軌道の長さの差が「70800π」になるという計算結果から,「軌道の長さの差は,地球の半径の値に関係なく決まること」(選択肢イ)を読み取ることが求められています。また,その理由として,「軌道の長さの差を求める計算過程で,r(地球の半径)の項が消去されていること」あるこの計算結果をレーンの事象に当てはめて解釈すると,①各レーンの長さを同じにするためには,第2レーンのスタートラインは,第1レーンのスタートラインよりも,2π(m)だけ前にずらす必要があること,②「2π」という計算結果にはr やa が含まれていないことから,2つのレーンの長さの差は,半円部分の半径や直線部分の長さに関係なく決まること,などを読み取ることができます。さらに,上述の計算過程を振り返ることによって,「レーンの長さの差はレーンの幅に依存すること」に気づくかもしれません。このように,計算結果である「2π」や上述の計算過程には,レーンにかかわる事象の本質が簡潔,明瞭に示されていることになります。 文字式に関する学習では,四則計算を正しく行う能力の育成とともに,本稿で取りあげた教材などの学習を通じて,「数学的な結果を事象に即して解釈し,数学的な表現を用いて説明する能力」の育成にも力を入れていくことが重要であると思います。また,こうした学習の積み重ねによって,事象の本質を考察する上で文字式が有用であることを,生徒たちに実感させたいものです。いは「軌道の長さの差を表す式70800πに,r(地球の半径)が含まれていないこと」を明確に説明できることも求められています。この問題の正答率は11.8%であり,かなり低い正答率にとどまっています。数学的な結果を事象に即して解釈し,説明する活動20   算数・数学情報誌 ROOT No.24 算数・数学情報誌 ROOT No.24 21