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概要

RooT No.25

 来年度(令和2年度)から,小学校では新学習指導要領が全面実施となりますので,まずは学習指導要領が変わることで,授業にどのような変化が見られるかを考えてみましょう。 今回の改訂では,子供たちが未来社会を切り拓くための資質・能力という汎用的な能力の育成が重視され,その資質・能力として,「知識・技能」,「思考力・判断力・表現力等」,「学びに向かう力・人間性等」という3 つの柱が示されました。そして,その育成のために,「主体的・対話的で深い学び」の実現に向けた授業改善を推進することが求められています。 また,算数科の内容では,領域の整理が行われていますが,最も大きな変更点としては,「データの活用」領域の内容が大幅に増えることが挙げられます。他の領域でも学年間の内容の移行はありますが,「データの活用」領域では,3~6年で内容が増加し,6年ではこれまで中学1 年で指導してきた,代表値(平均値,中央値,最頻値)が内容として含まれるようになります。 こうした大きな変更に対して,平成31 年度(令和元年度)全国学力・学習状況調査の問題から,これからの授業改善に向けて読み取れる部分をお伝えしたいと思います。 平成31 年度(令和元年度)の全国学力・学習状況調査から,主として知識に関する問題(A 問題)と,主として「活用」に関する問題(B 問題)の区分けがなくなりました。その理由としては,A問題とB 問題の区分が絶対的な●愛知教育大学 講師 髙井 吾朗一つの題材をもとに2 多角的に学ぶこと1 学習指導要領改訂に伴う大きな変更点▲平成31年度(令和元年度)全国学力・学習状況調査 小学校算数 2 (1)(2) ▲平成31年度(令和元年度)全国学力・学習状況調査 小学校算数 2 (3)(4)これからの時代に向けた知識・技能の習得のために小算? 7? 次に,かいとさんたちは,市全体の水の使用量には,人口が関係しているのではないかと思い,グラフ2とグラフ3を見つけ, ? つのグラフをもとに考えています。グラフ2 グラフ3市全体の水の使用量???? ???? ???? (年)(万m3 )????????????????????????????????? ???? ???? (年)(万人)?????????????市の人口私わたしたちは,水を大切に使っているといえるのでしょうか。市全体の水の使用量はわかりますが, ? 人で水をどのくらい使っているのかはわかりません。グラフ2とグラフ3を見ることで, ? 人あたりの水の使用量についてもわかります。かいとゆうかあやの小算? 6? ???? 年から???? 年までの, ?? 年ごとの市全体の水の使用量について,グラフ1からどのようなことがわかりますか。下の1 から4 までの中から? つ選んで,その番号を書きましょう。1 市全体の水の使用量は,減っている。2 市全体の水の使用量は,変わらない。3 市全体の水の使用量は,増えている。4 市全体の水の使用量は,増えたり減ったりしている。? グラフ1の, ???? 年の市全体の水の使用量は, ???? 年の市全体の水の使用量の約何倍ですか。答えを書きましょう。小算? 5かいとさんたちは,水を大切に使っているのかどうかを知りたいと思い,まず,自分たちの住んでいる市では,水をどのくらい使っているのかを調べています。かいとさんは,グラフ1を見つけました。グラフ1市全体の水の使用量??????????????? ???? ???? ???? (年)????(万m3 )??????????????2小算? 9? さらに,かいとさんは,自分が家で水をどのくらい使っているのかが気になり,洗せん顔がんと歯みがきで使う水の量を求めるために,下の式を考えました。【かいとさんが考えた式】6 + 0.5 × 2 = ?かいと洗顔? 回に? L 使う。? 日? 回洗あらう。歯みがき? 回に?.? L 使う。? 日? 回みがく。【かいとさんが考えた式】の,?に入る数を書きましょう。小算? 8あやのさんが言うように,グラフ2とグラフ3を見ることで, ???? 年から???? 年までの? 人あたりの水の使用量についてわかることがあります。???? 年から???? 年までの, ? 年ごとの? 人あたりの水の使用量について,どのようなことがわかりますか。下の1 から4 までの中から? つ選んで,その番号を書きましょう。また,その番号を選んだわけを,グラフ2とグラフ3からわかることをもとに,言葉や数を使って書きましょう。1 ? 人あたりの水の使用量は,減っている。2 ? 人あたりの水の使用量は,変わらない。3 ? 人あたりの水の使用量は,増えている。4 ? 人あたりの水の使用量は,増えたり減ったりしている。なくてもいいや」ということです。単に問題を解いたり,与えられたデータを読み取ったりするだけなら,当たり前のことを書かなくても解けます。しかし,方法の説明や,なぜそうなるのかという質問に対しては,当たり前の意味を考えなくてはいけません。 算数2 では,出題者が,水の使用量に関係しそうなデータとして人口を出していますが,これが授業であれば,多くのデータが候補として挙げられます。そのデータに意味があるかどうかは,実際にデータの分析を行わなければわかりませんが,でたらめにデータを持ってきたら,時間がいくらあっても足りません。故に元のデータと関係しそうなデータは何かな,という推測が重要となり,そのために必要な資質・能力として,これまで学んできた知識をモデルとして使えるという思考が挙げられます。 このように,当たり前のことを書かないという思考は,与えられた問題を解くときには,許される(許さない先生もいますが)ものであり,自分で問題を作ったり,解答が多様なオープンな問題に取り組んだりする際には,なぜそうなるのかを説明する必要があります。今回の改訂で増加した統計に関する問題は,こうした性格を多く含みます。 是非,これからの授業では,普段から発表させるときに,何故その式になったのか,どこからその発想を得たのかを聞き,表現力や自己調整の力を伸ばすことで,これからの時代に必要な素地を身につけられるようにしていただけると幸いです。ものでなくなりつつあることと,資質・能力の3つの柱が相互に関係し合いながら育成されるということが挙げられます。 では,どのような問題になったのかを,算数2の問題を例に見てみましょう。算数2 の問題は,水の使用量に関する問題です。市全体の水の使用量を10 年毎に表した棒グラフが表示されており,(1),(2)ではグラフの読み取りという技能が問われています。そして(3)では,水の使用量に対して,市の人口を比べるという2 変量の関係についての考え方が問われ,(4)では計算の順序についての技能が問われています。 このように,一つの題材をもとに,「知識・技能」「思考力・判断力・表現力等」が問われています。そして,これを授業で扱うと,(3)のように,「水の使用量には何が関係しているのか」という課題意識をもった数学的活動を通して,「学びに向かう力・人間性等」の涵養が行われるようになります。 これまでは,知識・技能の熟達の後に,それを活用するという流れが授業には多かったと思います。しかし,これからは,ある題材に対して見方・考え方を働かせ,必要に応じて知識・技能を熟達するという流れの授業の形も必要になってくるということになります。 次に,算数2 の正答率を見てみると,(1)は95.2%,(2)は78.8%と高い数値になっていますが,(3)は52.3%,(4)は60.4%と低くなっています。(4)は「6 + 0.5 × 2」という単純な計算問題ですが,「13」と解答している児童が22.5%おり,「左から計算する」という誤った技能を有していることが推測されます。普段の授業において,考えながら計算するということの大切さがここから見えてきますので,慣れたときこそ再確認という気持ちで授業に取り組んでもらえればと思います。 一方,最も正答率の低い(3)の解答類型を見てみると,出題者が意図している完全正答の割合は2.5%であり,極めて低い数値になっています。正答例を見てみると,2つの正答例がありますが,正答した児童のほとんどが,「市全体の水の使用量は変わってないけど,市の人口は増えているから,一人あたりの水の使用量は減っています」に近い解答をしています。そして,完全正答はこの記述の前に,「一人あたりの水の使用量を求める式は,(市全体の水の使用量)÷(市の人口)になります」という記述が必要となり,正答した児童の多くは,この記述が抜けていることがわかります。 少し推測を含みますが,この結果は,「わかっていることは書かない」という思考が働いた結果だと考えられます。つまり,「一人あたりの水の使用量を求める式はわかるけど,当たり前だから書か3 「データの活用」領域で学ばせたいこと●参考・引用文献文部科学省・国立教育政策研究所(2019),『平成31 年度(令和元年度)全国学力・学習状況調査報告書(小学校算数)』正答率60.4%正答率52.3%正答率95.2%正答率78.8%6   算数・数学情報誌 ROOT No.25 算数・数学情報誌 ROOT No.25 7