ブックタイトル生活&総合navi vol.69
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生活&総合navi vol.69
論壇せめて嫌いにさせないで-生き物を教えるということ-高槻成紀麻布大学獣医学部動物応用科学科教授。東京大学農学生命科学研究科助教授,東京大学総合研究博物館教授を経て現職。理学博士。専門は野生動物保全生態学。ニホンジカの生態学研究に長く取り組んでいる。最近では里山の動物,都市緑地の動物なども調査している。1幼児の行動やっと歩き始めたくらいの一歳児に芝生の上を歩かせると,必ずいやがる。皮膚のうすい幼児には芝生の葉の感触がチクチクするのか,あるいは痛いと感じるのかもしれない。こういう反応はどの子にも共通だが,ものに対する好き嫌いは子どもによっても違いがあるようだ。わたしは動物を研究しているから,人を動物の一種としてみる。幼児は概して赤い色を好むらしい。これについて,赤い色は情熱的で印象が強いからだという説明がある。赤が印象的であることは確かで,目立つ色の代表といってよいだろう。消防車,救急車,ポストなどが赤であるのは,「赤」という色のそういう性質を利用しているのだろう。ではなぜ印象的であるのか。それは血の色であり,火の色であるからという説明には一定の説得力がある。2方向音痴方向音痴は女性に多いようである。方向を知る能力に性差があるのを,動物学的にはどう説明するのだろうか。「ヒト」という「サル」の,三百万年ほどの歴史のほとんどはハンターであったとされる。サバンナ的な環境に進出したわれわれの祖先は,そこで草食獣などを獲るハンターであった。こういう環境での狩猟にはチームプレーが必要である。獲物を追い出すもの,追跡するもの,しとめるものなどの分業があり,それを組織的に行うためのリーダーが必要であり,成功するためには教育や訓練が必要である。大型の草食獣を捕獲するためには住居から遠くまで出かけ,動き回り,そして帰還しなければならない。そのためには地形を読み,印象的な場所を記憶するとともに,自分がどこにいるかを,いわば上空から見る想像力をもつ必要がある。それができない個体は道に迷って,最悪の場合は死ぬことになる。こうした役割を担ったのはオスであったから,オスのほうが地理感覚が発達したと説明できる。一方,メスはすみかの近くで果実やイモなどを集めることが重要な仕事であった。オスとは違い,メスは遠出はしない。家に帰るには,空から見るような感覚よりも,「あの岩までもどったら,右にまがってあの木を左に曲がる」というように,ランドマークを確認しながらルートをたどるほうが確実性がある。買い物を終えて帰るとき,自分がどちらの方向に進んでいるかとか,家からどういう位置関係にあるかということより,「あの信号の角をあっちに曲がり,あのマンションが見えたらこちらに進めばよい」式の歩き方をするのは,平均的にいえば女性に多い。3赤が好きなことの説明さて,幼児が赤を好むことを動物学的に説明しようとするとどうなるだろうか。わたしは,血や火を連想させるドキドキするような色を子どもが好むという説明は難しいと思う。赤はたしかに血や火の色ではあるが,同時にサルにとって重要なものの色でもある。それはベリーの色だということである。ベリーとは数ある果実のうち,果肉に水分を多く含み,しばしば糖分を多く含む果実のことをいう。キイチゴやナナカマド,ガマズミの実などはその代表である。ベリーには赤やオレンジのものが多い。それはなぜか?その答えを知るには,そもそもベリーとは何かを知る必要がある。4果実の事情わたしたちは何気なく果物を食べて,果物は人間の食べ物として存在しているものと思いがちだが,形を変えていようとも,イチゴもカキもミカンもブドウも,も8