ブックタイトル生活&総合navi vol.69
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生活&総合navi vol.69
小川にはカエルやドジョウがたくさんいた。子どもは虫とりやカエルとりをする中で,かすり傷をし,さまざまなことを覚えていった。しかし現在では,親になる世代が子どもの頃,すでに多くの場所で里山的環境は失われ,そのような環境に育っていない。都市生活者が圧倒的多数になり,虫とりや魚とりを日常的にする子どもは「絶滅」したと言ってよい。そういう世代は自然がどういうものであるかを知らない。家の中にはネズミやゴキブリは言うに及ばず,カもハエもいない。清潔感覚が異様に強く,抗菌グッズを求める。これはヒトが進化の歴史でまったく体験しなかった生活環境である。生活様式が変化しても,動植物を食べて排泄するというヒトの生活はまったく変化していない。このことは宇宙に行っても一切変わらない。そういう意味での遺伝子はまったく不変なのである。子どもが動くものに興味をもつことも不変である。そうであれば,自然から受ける様々なもの,例えば,でこぼこの地面を歩いて転ぶこと,草でかすり傷をすること,といった「小さな不愉快な体験」はするものとしてヒトはできているはずである。わたしが言いたいのは,不潔でよいということではもちろんない。そうではなく,自然界には大小の危険があるものであり,われわれは小さな危険を体験することで生き延びてきた集団の子孫なのだ,という事実を正しくとらえるべきだということである。11生き物を教えるということそのように自然から隔離された生活者の二世,三世が,今,学校の教員になる時代になった。その中で「生活科」があり,子どもは生き物のことを学ぶ。生き物を紹介するときに黒板にかいたり映像を見せたりするのと,実物を見せるのでは印象が大きく違う。もともと好きな動物のことを先生がどう話すかに大いに関心があり,その説明は子どもに大きな影響を与えるはずである。欧米ではオオカミが悪魔の動物とされ,「赤ずきんちゃん」などでイメージが増幅され,汚らわしい動物とされた。人と動物との距離も東西では大きく違うが,オオカミに対する欧米人の憎悪や嫌悪は信じられないほどのものがある。その渦中にいれば気付かないが,偏見とはそうしたものであろう。同じ意味で,糞虫やシデムシのことを考えたい。すでに述べたように,これらの昆虫は,自然界で糞や死体の分解というきわめて重要な役割を担っている。鼻つまみ者が実は偉大な仕事をしているのだ。それを見たこともないのに「汚ない」と決めつけて否定するのは,欧米でのオオカミ同様,正しくない。すべての生き物は,わたしたちの想像を絶する長い時間をかけて,生まれ,ペアを得て,子どもを産むという営みを続けて今がある。大切なのは,誤った先入観を排して,生き物のすべてがそれぞれに尊いという気持ちをもつことである。だが,見たことも,さわったこともない動物にそうした敬意をもつことができるはずはない。人は知らないものには警戒心をもち,なじむことができないからだ。誰しも心から確信をもてることでなければ教えることはできない。そうでなければ子どもの心に届くはずがない。子どもは文字よりも聞こえる言葉に頼り,言葉から心を感じ取り,直感的に理解する。そうであればこそ,心にないことは伝えることができない。子どもは,虫をさわることのできない先生が,動物を大切にしなさいということの虚偽を見抜く。わたしには大嫌いな言葉がある。「子どもだまし」である。この言葉の本質は何であるか。大人は物事がわかっているが,子どもはそうではない。大人は複雑だが,子どもは単純だから,サンタさんなどいないがだまされるという傲慢に由来する。わたしは,本当は子どものほうがだますことができないと思う。子どもは言葉が使い切れないだけに,直感が優れている。大人は頭で動物園の動物をけっこう幸せだと考えるが,子どもは動物が悲しんでいることを直感する。どちらが優れているか,答えは明らかであろう。その子どもをどうしてだますことができるだろう。命について教えるということは軽々しいことではない。それは真剣勝負でなければならず,そこには嘘があってはならない。そうであれば,動物を大切にしなさいという先生が,昆虫を嫌いであることは許されないだろう。子どもに命を教えるのであれば,先生自身が動物を好きになるほかない。そして,子どもがせめて生き物を嫌いにならないようにしてもらいたい。担当の先生に考えていただければ幸いである。11