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概要

生活&総合navi vol.70

論壇樹木の生き方を知ろう-身近で貴重な教材に-石井誠治樹木医。森林インストラクター東京会会長。環境カウンセラー。東京樹木医プロジェクト理事。主な著書には,『樹木ハカセになろう』(岩波ジュニア新書),『都会の木の花図鑑』(八坂書房),『大人の樹木学』(洋泉社新書)がある。子どもから大人まで,身近な自然に目を向けてもらう活動が好評。1鶴岡八幡宮の大イチョウ・倒れる前から傾いていた鎌倉時代からご神木だったと言われる大イチョウが2010(平成22)年3月10日,突然倒れました。場所は,鶴岡八幡宮境内の階段脇です。下の有りし日の姿は,倒れる1か月前の写真。よく見ると傾いているのがわかります。すでに重心は幹からはずれていたようです。倒れる前の写真をよく見ると,健康状態が透けて見えてきます。まず枝ですが,しめ縄の上には細かい枝が多く出ています。その上に幹が見え,太い枝がありますが,太い枝から伸びる細かい枝が少ないと思いませんか。倒れてわかったことですが,しめ縄の上に出ている細かい枝は根元周囲に伸びた細い根から水分を供給されていた枝なのです。直径2メートルもある幹ですが,内部は腐朽していて空洞だったため,樹体を支える太い根はすでに腐っていました。巨大なイチョウは,幹の周囲から伸びた細い根で,下のほうにある枝の葉を茂らせていたのです。では,上の枝はどのようにして水分を得ていたのでしょうか。上の枝に水を主に供給していたのは,腐朽して空洞となった幹内部から伸びて地面に達した不定根という根であり,ホースのようになって水分を吸い上げていたようです。倒れる寸前の大イチョウは,大きな樹体を支えるしっかりした根が腐朽して減り,細かい根でかろうじて支えられていたのです。・千年を生きるということイチョウが文献に登場するのは鎌倉時代以降です。イチョウは万葉集に一首も歌われていないことからもそれがわかります。そのため,倒れたイチョウは,中国からみしょう種を持ち帰った僧侶がまいた実生なえ苗(種から育てる苗のこと)の可能性があります。日本にない珍しい木のため,ご神木として大切に育てられたのでしょう。それが,各地に大木が残っている理由です。管理がよければ,倒れた株のように千年近く生きるのです。・生きた化石の意味現在見られる樹木の中で,最も古い形質を残しているのはイチョウです。独特の葉の形は,葉脈が二叉分枝を繰り返して横に広がった形になっています。まさに,植物が海から上陸して地上に分散していく時代の特徴を残しているのです。針葉樹よりも起源が古く,分化した仲間はすでに絶滅し,イチョウのみが現存しています。これが生きた化石と言われる所以なのです。写真中央は,ラッパのように丸まったイチョウの葉・ギンナンは銀のアンズイチョウは漢字で「銀杏」と書きます。中国では「公孫樹」。成熟が遅くて,実が成り始めるまで25年ほどかかるため,「孫」の字が入ります。ゆえに「銀杏」とはギンナンのことであり,木ではなく実に対する表記なのです。また,中国ではアンズの核を「杏8