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概要

生活&総合navi vol.70

北海道から沖縄まで,多様な環境があるため,花の種類が分化していきました。それが,江戸時代の参勤交代制度により,江戸へ各地のサクラが集合します。そこで交雑が起こり,品種が増えていきました。その後,明治維新の混乱で品種は減少しますが,戦後の復興の中で,サクラはシンボルとして復活を遂げます。秋に咲く品種は,雲南省で秋に咲き,初夏に実っていた性質が現れたものだと考えられています。ヒマラヤザクラは現在でも12月に咲き,6月に実が熟します。花時のみならず,実や葉,枝ぶりや芽など,身近な教材としてのサクラをもっと有効に活用すべきだと思います。・葉がないときこそ観察のチャンス落葉樹は,葉が落ちているときは枯れているように見えます。枯れた枝は,指で挟んで折り曲げてみると簡単に折れます。生きた枝は曲げてもすぐには折れません。生きている細胞は柔軟なのです。サルスベリやプラタナスのように樹皮が薄い木の幹は,爪を立ててこすると,緑色の木部が現れます。幹でも光合成をしている証拠です。枝の付き方や枝ぶりも,葉がないときのほうがよくわかります。また,サクラの花芽も葉がなエドヒガンのシダレ愛称「大糸桜」いときのほうが見極められます。・さわってみることの大切さ校庭の樹木は人が植えたものが中心です。そのため,入手しやすい樹種なので,珍しい木はあまり見当たりません。おなじみの木だから,観察するにはふさわしいのです。しかし,現在の教育で最も不足しているのは,実体験に伴う情報です。近年では,スギやヒノキは実態が知られずに,花粉症の原因ばかりが取り沙汰されています。例えば,身の回りで使われている線香は,スギからできています。緑の色はスギの葉を粉にしたためです。実際,スギの葉を燃やすと線香の煙と同じ香りがします。広葉樹の葉もさわってください。大半の葉は,表はつるりとしていて,裏は毛を感じます。表面は雨をはじきやすいように*クチクラ層が発達しています。裏面は気孔が多いので,余分な水分が入るのを防ぐために毛が生えているのです。もちろん,樹種によって手ざわりはまちまちです。だからこそ,手の感覚を使って周囲の自然を個体差として体感することができるのです。目に頼って情報を得る教室の中の授業では得られない,実感のこもる体験です。これも近くにある有効な教材の活用でしょう。・なぜ動かないか考えてみよう動物は,環境が悪くなれば移動します。では,植物はどうでしょう。校庭の樹木は動きません。子どもたちと,なぜ動かないのかを考えてみましょう。答えは簡単です。動く必要がないからです。動物は餌を求めて移動するため,大変なエネルギーを使っています。移動が必要だから身体全体を常によい状態に維持しなければなりません。つまり日々,身体をつくり替えなければ生きていけないのです。樹木はと言えば,生きている部分の割合が樹齢を重ねるたびに少なくなるような生き方ができるため,何百年もの樹齢を獲得できるのです。死んだ細胞と言っても,木部は有機物の塊なので栄養がたっぷりです。そして,昆虫やキノコの命を支えているのです。動かないことの最大のメリットは,極めて少エネルギーで生活できるということです。「亀は万年」と言われるのは,動物の中でも活性が低く少エネルギーで生きられるからなのです。樹木の生き方は,はるかにその上をいっています。屋久島の縄文杉が二千年,北アメリカにあるセコイアの巨樹が三千年,まさに木の生き方のすごさを体現しています。・体験に勝るものはなし生活科や総合的な学習の時間の授業は,最も体験活動ができ得る教科等であり,その大切さを学べます。是非,子どもたちの実体験の機会を増やし,気付きの幅や課題への発想力を広げてください。*クチクラ層表面をおおう層で,水分の蒸発を防いだり内部を保護する役割を果たしたりしている。11