ブックタイトル生活&総合navi vol.73
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生活&総合navi vol.73
“本物”の映画をつくる体験から“本物”の課題に向き合う野口先生のアクティブ・ラーニング教室Active learning class山形大学准教授。専門は生活科・総合的な学習。著書に『子どものくらしを支える教師と子どもの関係づくり』(ぎょうせい,共編著)など。野口 徹 平成28年12月21日に中央教育審議会が次期学習指導要領の改訂について答申しました。約二年間に渡った審議の中で特に話題の中心となったのが「アクティブ・ラーニング」でした。これについて答申では,子どもが「主体的・対話的で深い学び」を実現するために三つの視点を示し,アクティブ・ラーニングの質を担保するよう求めています。 今後の教師には,指導すべき内容をしっかりと教える場面と子どもたちが自ら思考・判断・表現する場面との両方を効果的に使い分ける高い指導力が求められることでしょう。そして,そうした指導力を教師が獲得するには,子どもがどこまで「主体的・対話的で深い学び」を実現し得るのか,という具体的なイメージを持っていることは必須になるでしょう。 今回紹介するのは,総合的な学習において小学生が「映画」の企画・立案・制作など全てを行い,さらにはこの映画を「ロードショー映画館」で上映することに成功したというものです。これは,山形市立南小学校の6年生が行った取り組みです。 この学習は,各クラスから選出された「総合係」の児童を中心として「自分たちの生活で問題に思っていることは?」というテーマで話し合いを重ねたことから始まります。この学校では,子どもの日常的な課題意識や願いを表現し合うことを基盤に総合の内容を決めています。この話し合いで自らの生活の中にはケンカや悪口などのトラブルが頻発していること,そして,それに誰もが不安を感じていることを浮き彫りにしていきます。そして,ここから「いじめのない,みんなで助け合う学校生活を目指す」という目的と,「いじめ撲滅をテーマにした本物の映画をつくろう!」という学習内容を「主体的」に決めて,学習活動の見通しをもつに至ります。 「本物の映画を」ということにはなりましたが,当然のことながら子どもたちには映画をつくる経験がありません。まずは映画制作にはどんな仕事があるのかを調べること。そして,それらに対してアドバイスをもらう「キー・パーソン」を探すこと。これらに子どもは取り組みました。プロデューサー・監督,脚本,撮影,出演者,衣装・美術,BGMや主題歌・肖像権等の権利管理の仕事などがあることがわかりました。「監督」「撮影」「美術」係の子どもは、学校の近くにある東北芸術工科大学映像学科やテレビ局,洋服店などと,「肖像権」係は司法書士事務所と交渉を行います。「出演者」係は児童劇団の指導者の方に連絡を取り,さらに「上映場所交渉」係は、「本物の映画館で上映してこそ達成感がある。」と考え,何館もの映画館との困難な交渉を重ねていきます。これらを通して,東北芸術工科大学の教授で映画監督の林海象氏や学生たち。テレビ局の報道制作局長,映画館の方などの専門家との出会い。さらに,友だちとも話し合いを重ねる「対話的」な連携から,新たな学びが広がっていったのです。 実際に映画を制作していくと,次から次へと困難に遭遇します。例えば出演者が病気で長期的に休むことになってしまう。映画の中で音楽家小田和正さんの楽曲を使いたい。しかし,それには小田さん本人の許諾が必要であることが判明する。どれも子どもたちの予想を超えた難題です。本気で取り組むからこそ出現する課題であると言えましょう。これらの課題を意識した子どもたちは一人ひとりが自分にできることはなにかないだろうかと話し合い,そして新たに行動を始めるのです。そこでは,これまでに学校の様々な場面で学習してきた「見方・考え方」を総動員して立ち向かっていきました。小田さんからも映画の趣旨を理解してもらい,音楽の使用許可をいただくことができました。こういったいくつもの「本物のドラマ」を乗り越えて生まれた映画が「友達ロックオン!―きっとそばにいるから」です。2016年11月にロードショー館で行われた上映会には小田和正さんからの花束も届けられました。多くの方に見ていただくことで子どもたちは大きな喜びを味わいました。しかし,彼らのゴールはここではないのです。学校や普段の生活の中から「いじめ」をなくすこと。この目的の達成に向けて彼らはこの映画をより多くの人に見てもらうことを計画しています。まさに新たな生き方が見えてきた「深い学び」の実現がなされようとしています。 この実践からは,子どもたちがどれだけ「本物の課題」に向き合うか。これがアクティブ・ラーニング実現の鍵となることが言えるのではないでしょうか。[主体的・対話的で深い学びを実現するための授業改善の三つの視点]? 子ども自身が興味を持って積極的に取り組むとともに、学習活動を自ら振り返り意味付けたり、身に付いた資質・能力を自覚したり、共有したりする「主体的な学び」? 子どもが身に付けた知識や技能を定着させ、物事の多面的で深い理解に至るために,多様な表現を通じて、教職員と子どもや、子ども同士が対話し、それによって思考を広げ深めていく「対話的な学び」? 子どもたちが、各教科等の学びの過程の中で、身に付けた資質・能力の三つの柱を活用・発揮しながら物事を捉え思考することを通じて、資質・能力をさらに伸ばしたり、新たな資質・能力を育んだりしていく「深い学び」子どもたちが制作した映画のチラシ野口先生のアクティブ・ラーニング教室7