ブックタイトル生活&総合navi vol.75
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生活&総合navi vol.75
資質・能力が小学校以降の各段階につながる幼稚園での「遊びこそ学び」野口先生のアクティブ・ラーニング教室Active learning class山形大学准教授。専門は生活科・総合的な学習。著書に『子どものくらしを支える教師と子どもの関係づくり』(ぎょうせい,共編著)など。野口 徹 今春3月30日の高等学校の学習指導要領の改訂・告示をもって,幼稚園から高等学校までの全ての教育要領・学習指導要領が出そろいました。これらを貫いているのが「何を学ぶか」「どのように学ぶか」「何ができるようになるか」という,三つの視点です。今回の改訂で極めて大切にされていることとして,「何ができるようになるか」,いわゆる「資質・能力」が挙げられます。これには幼児期に育てた資質・能力が小学校以降の各段階につながることがはっきりと示されているのです。幼児が毎日通う幼稚園での経験は,高等学校までの「学び」に直結している,と自信をもって伝えられるようになったことには大きな意義があることと思います。 では,まさに学びの入り口にあたる幼稚園では,どのような学びが展開されているのでしょうか。幼稚園で行われていることについては,案外知られていないかも知れません。 幼稚園教育要領の前文には,「これからの幼稚園」として次の内容が示されています。学校教育の始まりとして,こうした教育の目的及び目標の達成を目指しつつ,一人一人の幼児が,将来,自分のよさや可能性を認識するとともに,あらゆる他者を価値のある存在として尊重し,多様な人々と協働しながら様々な社会的変化を乗り越え,豊かな人生を切り拓き,持続可能な社会の創り手となることができるようにするための基礎を培うことが求められる。 この文章では,幼稚園に一人ひとりの幼児に対して次のことが「できるようにするための基礎」を培うことを求めています。① 自分のよさや可能性を認識する② あらゆる他者を価値のある存在として尊重する③ 多様な人々と協働しながら様々な社会的変化を乗り越える④ 豊かな人生を切り拓く⑤ 持続可能な社会の創り手となる このようなことができるようにするために,どんなことを幼稚園では大切にするのでしょうか。これについては,幼稚園教育要領の総則の「幼稚園教育の基本」に見ることができます。ここでは幼稚園の教師に,幼児との信頼関係を十分に築くことと,幼児が身近な環境に主体的にかかわり,その環境とのかかわり方や意味に気付くことから,試行錯誤したり,考えたりする教育環境を幼児と共に創造することを求めています。また,幼児のそのような環境とのかかわりから生み出される遊びは,心身の調和のとれた発達の基礎を培う重要な学習である,として,幼稚園では遊びを通しての指導を中心としていくことを求めてもいます。ここで示している幼稚園での「学び」とは,幼児が様々な環境とかかわることによって導き出す「遊び」である,つまり,「遊ぶことは学びだ」と定義づけているわけです。それでは,幼稚園で展開されている「遊びこそ学び」とは具体的にどのような実践になるのでしょうか。 そんなことを考えるときに,格好の対象となるのが山形県南陽市立赤湯幼稚園です。こちらは,ソニー教育財団が主催する「ソニー幼児教育支援プログラム」において,3年連続で「優秀園」として入選している,全国的にその取り組みが知られている幼稚園です。 赤湯幼稚園の子どもは,とにかく主体的に遊びます。その遊びの中で子どもが「あれっ?」「どうして?」「やってみたい!」という心の動きが現れてくるときに,そんな子どもの心を保育者がいかにキャッチするか。そして,それがより現れてくる環境の構成や援助はいかにあるべきか。これについて赤湯幼稚園では熱心に研究を重ねているのです。同時に,赤湯幼稚園では,子どもが遊びの中で感じた心の動きを口にすることを促します。それは子どもの大事な「はっけん」だからだ,と先生たちはとらえているのです。例えば,「色水あそび」を熱心にしていた子どもたち。色のついた紙テープを指でちぎって水と混ぜて合わせていきます。それらをどんどん混ぜていくと,思いもよらない色が見えてきたりします。「なんで?」のつぶやきが生まれます。たいせつな「はっけん」は保存したい。ですからペットボトルに入れてみることを思いついたりします。今度はそのペットボトルに太陽の光を通してみます。「あれ?色が変わったぞ!」とさらに「はっけん」が導き出されるのです。このように,赤湯幼稚園の子どもは,遊びを通して次から次へと新たな気付きを響かせていくのですが,先生たちはそこで止まりません。そんな気付きの瞬間を写真に撮り,掲示するのです。さらに,そこに子どもの気付きの言葉を添えていくのです。その子どもが字を書けるときには本人が書きます。もしくは先生が代筆することもあります。つまり,園舎の中は,子どもが精いっぱい遊びを通して気付いた姿と言葉で埋め尽くされているのです。赤湯幼稚園の子どもは,そんな掲示物を見ながら,新たな遊びの方向性や可能性を考えていきます。「今度はこれをやってみよう!」自分や友だちの姿や言葉は,そのまま「教科書」と同じ役割をしているのです。まさにこれが「遊びこそ学び」の姿なのでしょう。毎日の真剣な遊びで彼らは力いっぱい学んでいるのです。野口先生のアクティブ・ラーニング教室7