ブックタイトル生活&総合navi vol.76 2020年度版生活科教科書特集号

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生活&総合navi vol.76 2020年度版生活科教科書特集号

スウェーデンの小学校では,「朝食」や「愛」など様々なテーマで,教科の垣根を越えた総合学習やテーマ学習に取り組んでいる。ラーロプラン民主主義の価値観を伝える教育雪がちらつく早春の午後、戸野塚厚子教授(宮城学院女子大学学芸学部教授・教育学博士)の研究室を訪ねた私たちを、先生は温かいコーヒーで迎えてくれた。「スウェーデンではどの職場にも、『フィーカ』というコーヒーブレークがあります。ただの休憩ではなく、とても大切なコミュニケーションの時間なんですよ」スウェーデンの教育事情に明るく、何度も現地に足を運んでいる戸野塚先生がそう語るように、スウェーデンでは小学校の教員も、フィーカがなければ始まらない。お茶やコーヒーをすすり、お菓子をつまみながらのフィーカタイムは、ベテランも若手もなく、リラックスして話ができる貴重なひとときだ。各教科で今、何を勉強しているか。教科横断型テーマ授業の、各教科の進捗具合はどうか。おもしろい学習材の情報、「こんな試みをやってみようと思う」という意見、それに対するアドバイス。授業での子どもたちの様子を、先生たちは日々共有し、意見交換をしながら、それぞれの授業の改善を図っていく。もちろんスウェーデンの先生たちの連携や"ゆとり"は、フィーカのおかげだけではない。スウェーデンにも、日本の学習指導要領に相当する「ラーロプラン」があり、「必ず教えるべきこと」が決められている。だがそのミニマムさえきちんとおさえれば、そこから先のカリキュラムは、学校や教員の自由裁量に、大きく委ねられているのだ。スウェーデンが誇る「共生」に関する教育も、こうした大らかな教育環境の中で、丁寧に扱われ続けてきた。戸野塚先生はいう。「スウェーデンでは、次世代を担う子どもたちに、『民主主義の基礎的価値』を、しっかり教えることが重視されています。生命の不可侵性、人間の自由と尊厳、平等、恵まれない人への連帯感などは、学校で教えるべき重要な価値観として、ラーロプランに明記されているのです。共生教育のカリキュラムは、その理念のもとで具体化され、教師の実践が展開しているといえます」共生を学ぶ科学的視点で多様性を理解する「共生」のカリキュラムとは、他者とのあらゆる違いを越えて、連帯していくための学びである。歴史的にも地理的にも、多様な民族、多様な文化が混在するヨーロッパでは、共生は常に身近で深刻なテーマだった。特に国の平等政策や、国民はひとつの"家"で支え合って暮らしているとの「国民の家」思想をもつスウェーデンでは、義務教育から必然的に、「共生」を実現するための学びに取り組んできた。ラーロプランに最初に「共生」の学びが登場するのは、1962年のこと。「性と共生」のカリキュラムからスタートし、69年から80年代には、「障がい者との共生」がフォーカスされた。その後90年代にかけては、移民や難民との「多文化共生」が、そして直近の2011年度改訂からは、「性と共生」の中で性的マイノリティについての学びが、強調されるようになった。男女の関係から、より多様な他者との関係へと、共生の対象が広がっていく中で、折々の社会事情に即したテーマがクローズアップされ、同時に昔からのテーマも継続して、学校で教え続けている。とはいえ、スウェーデンの義務教育に、「共生」という科目があるわけではない。「共生」は教科横断的なテーマであり、カリキュラムの類型は、校長の責任のもと学校裁量で柔軟に決められている。「たとえば理科の授業では、『皮膚の色の違いは、メラニンという色素による違いだ』と、1年生から学びます。メラニンという難しい言葉は使わなくても、肌の色は身体の仕組みによって違うと、理解できればよいのです。赤道直下の人たちは、暑さから脳を守るために髪の毛が縮れていたり、紫外線から肌を守るための黒や茶褐色のメラニンをもっていたりする。それが環境に適した身体の状態だとわかると、偏見は生まれません」スウェーデンの「共生の学び」に主体的・対話的で深い学びを見る筑波大学文部技官・助手を経て1 993年に宮城学院女子大学講師、2007年から現職。文部科学省大学設置・学校法人審議会専門委員(2011年度~2 013年度)。主な著書に『スウェーデンの義務教育における「共生」のカリキュラム』(明石書店)。宮城学院女子大学学芸学部教授・教育学博士戸野塚厚子Profileスウェーデンの「共生の学び」に主体的・対話的で深い学びを見る19スウェーデンの「共生の学び」に主体的・対話的で深い学びを見る18