ActiBookアプリアイコンActiBookアプリをダウンロード(無償)

  • Available on the Appstore
  • Available on the Google play

概要

生活&総合navi vol.77

原因はクラスの雰囲気と学業?低年齢化も進む不登校の実態?石堂 はじめに、お二人の取り組みについて教えてください。?村上 私は10年ほど前から、読み書きに困難のある発達障害の子どもたちに、英語指導をしています。一般に、学習困難があると英語の習得は難しいとされていますが、小学校で外国語が教科化されるとなると、そう言ってもいられません。現在はオンラインで、小学生から高校生までの読み書きが苦手な子どもたちを集めて、有効な指導方法を実践的に研究しているところです。?宮村 私は5年前に自分の子どもが待機児童になったのをきっかけに、小規模認可保育園を始めました。子どもだけでなく、保護者もシニアも集まる、地域の茶の間のような場所にしたいという思いで、?ちゃのま保育園?と名付けています。現在、0歳児3人、1歳児6人、2歳児10人を預かっています。?石堂 僕は教員になって今年で28年目です。これまで僕たち教員は、支援が必要な子どもたちを取り残さないという気持ちで、インクルーシブ教育に取り組んできました。一方、支援を要する子どもの中には、素晴らしく感受性が豊かな子や、みんなが憧れるような能力をもつ子がいますから、クラスをその子に合わせるという考え方も、できると思うのです。?障害の有無にかかわらず? という発想を超え、すべての子どもから優れた力を引き出すインクルーシブ教育に取り組んでいるところです。 さて、ここからが本題ですが、子どもの不登校の要因についての村上先生の資料を興味深く拝見しました?図表??。子どもたちが置かれている状況を理解するために、最初に少し説明していただけますか。?村上 年々増加する不登校の割合が、社会的な問題になっていることはご承知の通りです。文科省の調査によると、中学校の不登校者は、平成29年で10万8999人と過去最高でした。中学生に対する別の調査では、不登校者は4・5%でしたが、不登校予備軍は23・6%と、すでに中学生の4人に一人にまでなっています。では何が原因で学校へ行きたくなくなるのか。それを調べたのがこの資料です。 学校に行きたくない理由で一番多かったのは?クラスの雰囲気?、二番目が?勉強についての悩み?でした。複数回答なので、いろんな要因が絡んでいると思われます。?石堂 上位二つの回答には目を引かれますね。学級づくりがうまくいったときは、学力も向上するなど、クラスの雰囲気と学習には相関関係があることがわかってきています。?村上 発達障害のある子どもについていうと、発達障害のある子は必ず学習でつまずく、というわけではありません。発達障害を本物の"障害"にしてしまうかどうかには、環境要因が大いに関わってきます。例えば、一人ひとりに目を向けた、丁寧なクラスづくりができているか否かで、同じ子どもの問題行動が大きくなったり小さくなったりするのです。 なかでも学習障害の有無は、本格的に学習が始まるまでわかりません。新出漢字が1年生のときの倍に増え、算数で九九が入ってくる小学校2年生くらいで、勉強がわからない子が出始め、学年の終わりごろから、学校への行きしぶりが始まる。そういう傾向が最近よく見受けられ、不登校の低年齢化が進んでいるように思います。?石堂 昨年度僕は22年ぶりに2年生を担当したのですが、子どもたちの発達差がある低学年期の大切さを強く感じました。5歳までの子どもたちは、遊びそのものが学習です。でも小学校に上がると、机に向かっての"勉強"が始まる。この環境の変化も、小学校の低学年で勉強が嫌いになる引き金ではという気がします。そこをうまくつなげるよう、保幼小接続期カリキュラムが重視されているのはいいことですね。専門家の協力を得て子どもの特性に合った保育を実践?石堂 宮村さんは保育を通じて、幼い子どもの成長過程を見ておられますよね。子どもたちの特性の発達をどう感じますか。?宮村 現場の保育士さんたちの声を聞くと、1歳児の時点ですでに一人ひとりの特性がわかるといいますね。ただ?特性がある?という事実を知って何かが変わるわけではなく、その子に合ったフォローをしながら、通常の保育を行っています。?石堂 ?その子に合ったフォロー?ですね。そのなかで、特に気を付けていることはありますか。?宮村 児童心理司さんや言語聴覚士さんなど、子どもの発育に関するプロが集まる一般社団法人と一緒に、3年前からオリジナル研修を行っています。 専門家の方たちが一緒に保育に入って、細かく観察をしてくれるのですが、特にいいのは、子どもだけでなく保育士さんのこともちゃんと見てくれる点です。子どもと保育士さん両方を見て、個々の保育士に助言してくれますし、子どもと保育士の組み合わせごとに適切なフォローの仕方をアドバイスしてもらえるのもありがたいです。?村上 それはすごくいいですね。教員にもそれぞれ特性や個性があるのを、私たちはうっかり忘れがちですから。?宮村 ええ、否定的な言葉を使わないとか、子どもに寄り添うとか、保育士さんはみんな十分わかっています。でも現場でその通りにやっても、うまくいかないことがある。そこに対応するために、専門家集団の力を借りています。?石堂 僕らが教員研修を担当するときは、授業づくりや学級経営など、とかく方法論に目がいきがちですよね。でもそれだけではなく、一人ひとりの先生が長所を発揮し、学年全体がチームとしてやっていくという、もっと大きな視野も必要ですね。どの子どもにも特性がある個々の特性をクラスに取り込もう?村上 石堂先生は、子どもの特性って何だと思われますか。?石堂 小学生ではよく、その子が夢中になってやることや、こだわっていることがあるでしょ。あれも特性だと思うのです。勉強は苦手だけど、気持ちが優しいといったこともそうですね。 特性というと、こんな2年生がいました。みんなでミニトマトを育てたときのことです。Aくんは人一倍熱心で、毎日登校時と下校前に全員のトマトに水をやるんですよ。そのとき観察もしていたのでしょうね、ある日、トマトの実の下のほうにある葉っぱが全部黄色になっていると教えてくれました。他の子が気付いていないことに、彼は気付いたのです。それはこの子の感受性の強さからきている気付きであり、彼の特性の発露です。 僕はAくんの気付きをクラスに取り入れたいと思いました。そして次の授業でミニトマトの葉っぱが黄色くなった原因をみんなで考え、最終的に葉っぱが栄養をトマトの実にやったからだと、子どもたちは授業を通して知りました。Aくんの気付きをきっかけに、それまで知らなかったことをみんなで調べて発見したのです。 Aくんは言葉を書くのがあまり得意ではありません。でもその授業の振り返りでは、とてもたくさんの言葉を書きました。しかもそれ以来、生活科が好きになっていったのです。 子どもの特性を観察し、授業に取り入れる大切さを、僕もAくんから学んだように思います。?村上 人間というのは、何もかもが過不足なくできる、丸い玉のような存在ではなくて、みんなそれぞれ得意なことも苦手なこともある、でこぼこした存在だと思うのです。どんな子どもにも得意なことはあり、そこに光を当ててあげることで、その子の長所はさらに伸びるし、自信がもてるようになっていく。?宮村 幼児の場合、同じ年齢でも発達の度合いは大きく違います。その違い自体も、その子の特性です。紙芝居はどこの園でもやっていると思いますが、?ちゃのま保育園?では、名詞、色、数字などを強調するように、ひと工夫しています。そうすることで、音が苦手な子も、定型発達の子も、発育が遅い子も、みんなが楽しめる紙芝居になるのです。?石堂 宮村さんがいう?みんな中学生の4人に一人が不登校予備軍保育士の特性も踏まえて子どもに寄り添う学級担任としての「子どもたちと創る」授業づくりは,毎月,県内外からの授業視察を受ける。また校内研修支援コーディネーターとして,授業改善やカリキュラムづくりのサポートも行う。2014年2月,自分の子どもたちが待機児童になったことをきっかけに行政に文句ばかり言ってウジウジしている自分が嫌になり,働きたいお母さんが安心して子どもを預けられる保育所をつくろう! と,2014年10月,準備期間半年でちゃのま保育園を設立。たつの市立新宮小学校主幹教諭ちゃのま保育園代表石堂 裕英語教育UD研究学会会長。英語の読み書きに困難のある児童生徒を対象とした「オンラインチャレンジ教室」顧問。著書に『読み書きの苦手な子どもたちへの英単語指導ワーク』(明治図書)など。甲南女子大学准教授村上 加代子宮村 柚衣英語の教育では 経験を通じて 発想を変えて学校に行きたくない理由として,クラスの雰囲気が嫌だという子どもが44%と目を引く。次いで勉強についての悩みをあげた子どもが36%だった。出典: NHK News Web( 2019/5/27) 「不登校の原因国とNHKのネット調査で大きな差」学校に行きたくないと思うようになった原因図表?【不登校の要因について(複数回答)n=378】クラスの雰囲気が嫌学校の勉強についての悩み友人関係をめぐる問題先生との関係についての悩みいじめを受けた決まりや校則になじめない44%36%29%23%21%21%個々の子どもとクラスをつないでいく。「子どもの特性をクラスに引き込むことで,学びが広がり,子どもの自尊心も高まることに期待する」と石堂先生。【子ども一人ひとりの可能性を最大限に伸ばすための環境づくり】取り残さない支援を要する子教員や子どもたちが手を差し出せる能力・感性に近づける支援を要する子の思考クラスの思考[特集]みんなが主役になれる学校をつくろう|前編3[特集]みんなが主役になれる学校をつくろう|前編2