ブックタイトル社会科navi Vol.11
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社会科navi Vol.11
これまで,フィリピン人移住労働者を題材にした映画の多くが送り出し側であるフィリピンで製作されてきた。この映画は,受け入れ側のシンガポールで製作され,現地社会の事情が反映されている。フィリピンからやってきたメイドのテレサ,共働きで一人っ子の中流家庭という関係の中で展開される人間模様が注目である。移住労働者送り出し大国フィリピン世界最大の移民・移住労働者送り出し国フィリピンでは,2013年時点で総人口の1割弱に相当する約1024万人が21の国・地域に暮らしている。海外への期間契約労働の業者などを管理監督する政府機関である海外雇用庁が存在し,この政府機関が把握する期間契約の移住労働者は年間224万人程度である。労働者たちの渡航先は中東,アジア,ヨーロッパ,北米など世界中におよんでいる。移住労働者のうちの女性が占める割合は約半数であり,多くが,介護・看護,家事労働である。現在,国内総生産(GDP)の1割弱に相当する額が海外からフィリピンに送金されており,移住労働は国家の「一大産業」である。そして,この「産業」を支えている移住労働者たちは「Bagong bayani(バゴン・バヤニ,ニューヒーローの意味)」と呼ばれることもある。シンガポールでは1978年から外国人家事労働者を受け入れている。親の家事育児が軽減され,職場における男女平等に貢献したと言われている。しかし,この映画の舞台となった90年代後半には,フィリピン人メイドが雇用主宅の風呂場で死亡したこどもの殺人容疑で逮捕され死刑宣告を受け,執行された痛ましい事件が起こっている。この事件は冤罪の疑いがあり,当時,フィリピンとシンガポール両政府間の大きな外交問題に発展した。また移住労働者のなかでは,映画に登場するテレサと同じようにこどもをフィリピンの親戚や家族に預けたまま働くことも頻繁にみられる。送り出し社会であるフィリピン側からみた場合,親が長期間におよび家を不在にすることは家族生活に大きな悪影響をおよぼすことになる。両親が長期間不在となる家庭もある。夫婦や親子間のコミュニケーション・ギャップや,海外からの仕送りが浪費や家族間の金銭トラブルにつながるケース,両親の不在などの寂しさからこどもが不登校や不就学になる事態などが起こっている。現在,日本でも外国人家事労働者受け入れが議論されている。しかし,受け入れる側の社会の利点だけではなく,送り出し社会のリスクや犠牲に注意を払う必要があるだろう。著者紹介永田貴聖(ながたあつまさ)専門分野/文化人類学,移民研究主要著書/『トランスナショナル・フィリピン人の民族誌』(ナカニシヤ出版,2011年)国立民族学博物館(みんぱく)では,2015年12月12日(土)の上映会「みんぱくワールドシネマ」で,「イロイロぬくもりの記憶」を上映します(無料。ただし,展示観覧券が必要です)。詳しくはみんぱくのホームページ(http://www.minpaku.ac.jp/museum/event/fs)をご覧ください。17