ActiBookアプリアイコンActiBookアプリをダウンロード(無償)

  • Available on the Appstore
  • Available on the Google play
  • Available on the Windows Store

概要

社会科navi Vol.11

る」という見方がありました。いずれにせよ,しっかりとした規範の設定を急ぐ必要がありました。保護する責任についての合意形成2000年の国連ミレニアム・サミットで国連事務総長から依頼を受け,カナダ政府が中心となって国際委員会を設置しました。この委員会は,大規模な人道の危機に国際社会がより積極的に介入するための指針を検討しました。その際に,第一に重要であったのは,人道的介入を行う国家の権利という,従来の考え方を転換し,国際社会の側の責任としたことです。第二に,市民を保護する責任を持つのは,まず当該国の政府であることを強調しました。「責任としての主権」という考え方です。しかし当該政府が責任を果たす意思を持たない場合,あるいは能力をもたない場合に限って,国際社会へと保護する責任が移行することを示したのです。委員会の提言を受けて,多くの国を巻き込んだ議論がなされました。大国による介入を懸念する途上国には,反対する諸国が多くありました。日本政府は,途上国との関係を重視し主権を超えた介入に消極的でした。ブッシュ政権もまた,自国の行動の自由を奪われる懸念があるという観点から,規範設定に非常に消極的でした。そのため,国連では,保護する責任が適用される事態を国際法上で認められた問題に限定すること,安保理による決定を前提とすることなど,具体的な縛りをかけました。こうして2005年の国連総会では,保護する責任について盛り込んだ文書が採択されました。1人道に対する罪,戦争犯罪,ジェノサイド(特定のるが,最終的には安保理の決定に基づき経済制裁や武力行使など強制的な措置も含めてこの問題に対処することが書かれています。さらに,2009年には,保護する責任に関する総会決議も採択されました。ここ10年の間に,アフリカ諸国のなかにも,自分たちの問題として積極的に考える指導者が増え,保護する責任の考え方自体に異を唱える諸国は少なくなっています。保護する責任の実施とその課題それでは保護する責任は,どの程度,適用されているのでしょうか。安保理が保護する責任に言及した例として,スーダン,南スーダン,リビア,マリ,コートジボワール,イエメンなどの紛争があげられます。これらの地域では,限定的ではありますが,保護する責任の考え方によって,人々の命が救われたことを積極的に評価する意見もあります。しかし,冒頭に述べたシリアでは保護する責任は適用されていません。それはなぜでしょうか。第一の理由は,常任理事国であるロシアがアサド政権を支持しており,同国に対して主権を超えた介入を行うことには否定的であるためです。第二の理由は,紛争のあり方にあります。様々な集団が入り乱れて一般市民の住む地域で戦闘を続けているため,介入のコストがきわめて高いと予測されるためです。このように現在の国連のルールのもとでは,実際に保護する責任が適用されるかどうかは,ケースバイケースにならざるをえません。人道の危機への対応においては,常任理事国が拒否権を放棄するなど,安保理のルール変更が急務であるといわれます。人種,宗教など集団に属することを理由にした大量殺害),民族浄化(強制追放や付随する殺害など)などの事態を対象として,2その状況から市民を保護する第一の責任が当該国にあること,3もしそれがなされない場合には国際社会にその責任が課されること,4国際社会は幅広い対応をと著者紹介栗栖薫子(くるすかおる)専門分野/国際関係論主要著書/『国際政治学をつかむ』(共著,有斐閣,2009年),『「戦争」で読む日米関係100年―日露戦争から対テロ戦争まで』(共著,朝日選書,2012年)日本文教出版『中学社会公民的分野』教科書著者21