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概要

社会科navi Vol.12

みんぱくワールドシネマ【第12回】移民/難民について考えるための映画案内国立民族学博物館准教授鈴木紀「シュガー」図1「シュガー」のDVDと,「デザート・フラワー」の主人公ワリス・ディリーの著作。国立民族学博物館(以下みんぱく)では,「映像に描かれる包摂と自律」というテーマのもと「みんぱくワールドシネマ」という映画会を開催している。「包摂と自律」とは社会の中で多数派と少数派が共存していくためのバランスを意味する。包摂とは,多数派が少数派を排除せずに仲間として受け入れることであり,自律とは,少数派が多数派に同化されずに自分らしく生きることである。格差の拡大,多様な文化の出会い,個性の主張等により,さまざまな形で多数派と少数派が日々形成されている今日,みんぱくでは「包摂と自律」を喫緊の課題と位置づけ,映画を通してその理解を深める企画を推進している。「包摂と自律」が特に求められるのは,ある社会に移民や難民が流入してくる時である。中東から欧州へと大勢の人々が移動し,日本の対応も問われている昨今,本稿では移民/難民の境遇やその受け入れ方を考える上でヒントとなる映画を紹介したい。なお以下の映画は,「みんぱくワールドシネマ」で上映を検討しているが,諸般の事情からまだ映画会が実現していないものであることをお断りしておきたい。「シュガー」(アンナ・ボーデン/ライアン・フレック監督,アメリカ/ドミニカ共和国,2009年)は,カリブ海のドミニカ共和国からアメリカ合衆国へ野球選手として移住したサントス青年の物語である。投手としての才能を見いだされたサントスは,メジャーリーグ球団がドミニカ共和国に開設したアカデミー(新人発掘キャンプ)に迎えられる。そしてアメリカに渡ってマイナーリーグに挑戦するが,待っていたのは熾烈な競争だった。やがて彼は自尊心をもって野球を続けるために,ニューヨーク近郊のラテン系コミュニティに身を寄せ,そこで生きる道を選ぶ。この映画は野球をテーマにしているが,より普遍的には,持っている技能次第で移民の生活がいかようにも変化するという冷たい現実が描かれているといえる。一流選手になれば大金を手にできるが,途中で挫折すれば滞在すら許されない。そうした受け入れ社会側のご都合主義は,移民自身の夢や希望と衝突する。サントスはなぜ球団を離れた後,故郷に帰らなかったのだろうか。それはアメリカで活躍して家族や親族,友人たちを喜ばせたいと願っていたからだ。そしてその手段は野球だけでないことに気がついたのだ。故郷の期待を一身に背負ったサントスは,おめおめと帰国できなかったのだ。「デザート・フラワー」「デザート・フラワー」(シェリー・ホーマン監督,ドイツ/オーストリア/フランス,2009年)は,ソマリア出身のスーパーモデル,ワリス・ディリーの自伝『砂漠の女ディリー』を原作18