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概要

社会科navi Vol.12

特集主権者教育を考える主権者教育の考え方と課題―公民教育の歴史と関わらせて―新潟大学准教授釜本健司1.主権者教育の目標2015年6月の公職選挙法改正によって,18歳から選挙権が付与されるようになった。それに伴い,主権者教育を重視する方針が打ち出された。この方針が出された契機は,国民の政治意識の向上や政治参加の促進を目的とする啓発活動の時代に即したあり方を検討した「常時啓発事業のあり方等研究会」で提案されたことにある。そこで,まずは,この研究会の最終報告書(常時啓発事業のあり方等研究会2011)をもとに,主権者教育の目標を述べていきたい。同研究会は,主権者教育を「社会の構成員としての市民が備えるべき市民性を育成するために行われる教育であり,集団への所属意識,権利の享受や責任・義務の履行,公的な事柄への関心や関与などを開発し,社会参加に必要な知識,技能,価値観を習得させる教育である」と定義した。主権者教育では,この定義に含まれる広範な知識,技能,価値観の習得を図る際,特に「政治的リテラシー」と「社会参加」の2つの視点が重視されている。「政治的リテラシー」とは,政治的判断力や批判力ともいわれ「政治的・社会的に対立している問題について判断をし,意思決定をしていく資質」を意味する。また,主権者教育で「社会参加」が重視されるのは,「知識を習得するだけでなく,実際に社会の諸活動に参加し,体験することで,社会の一員としての自覚」を増大させてこそ,主権者としての資質・能力が育成できるからである。ただし,「社会参加」が,投票への参加意欲の高揚など,政治参加意識の向上をめざす活動のみにとどまるならば,民主主義社会を担う主権者の社会参加としては不十分である。というのも,そうした活動には,他者と考えあって多様な意見を理解・尊重しつつ,自らの意見を表明するという側面が乏しいからである。ここから,政治的・社会的に対立している問題の「情報を収集し,的確に読み解き,考察し,判断する訓練」の充実が主張されるのは,政治的・社会的問題を,他者とともに考えあうことが主権者教育として重要になるためであるということが分かる。2.公民教育の歴史にみる主権者教育の意義この主権者教育を充実すべきという提案は,有権者の拡大に伴ってなされている。日本の政治教育の歴史をみると,今回の提案のように,国政選挙の有権者が拡大する度に,参政権を充分に行使できるようにする教育としての政治教育やそれを担う教科の充実が図られてきた。有権者の拡大が政治教育の充実につながった最初の画期は,1925年の普通選挙法制定により25歳以上の男子すべてに選挙権が付与されたのに伴って,政治教育や公民教育を充実させるべきと主張されたことである。この主張が,1930年代初頭の中等学校での公民科成立に結実した。成立当時の公民科は,「どう云ふ方法で投票するが最も正しいかと云ふ事を教へるのが公民教育である」(木村1931)とし,政治参加場面での判断力の育成が中心目標とされた。その意味で,政治2