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概要

社会科navi Vol.12

生活の国際手帳【第5回】国際社会の主体となり始めた国際機関神戸大学教授栗栖薫子多様な活動を行う国際機関世界保健機関(WHO),国連教育科学文化機関(UNESCO)などの国際機関は,世界の人たちの生活にかかわる,多様な活動を行っています。日本は資金を拠出しているだけではありません。新型インフルエンザなどの感染症が発生したときには,日本政府もWHOと協力して対策を行います。日本に再定住するため,ミャンマーから難民を受け入れた際には,国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)の協力を得ました。世界で開発,保健,教育の分野で協力するための様々な必要性が増えてくるなかで,国際機関の数も増加し,活動の領域も拡大しています。いまでは私たちの生活において欠かせない役割を果たしています。今回は,現代の世界における国際機関について考えてみたいと思います。グローバル・ガヴァナンスの進展と国際機関への関心の高まりここ20年くらいの間に,グローバル・ガヴァナンスという言葉が浸透してきました。そこには,政府間の組織である国際機関だけでなく,NGOや企業なども積極的にかかわるようになっています。また,国内の行政に近くなっているとういうことで,国際行政という言葉も使われることがあります。国際社会と国内社会とのちがい,それは法を執行し強制する中央政府がないということです。つまり,「世界政府」は存在しないわけです。それにもかかわらず,国際関係において,ガヴァナンスという統治に近い考え方や,行政という言葉があてはめられるようになってきたのは,大変興味深いことです。そして,グローバル・ガヴァナンスのなかで行政を提供しているのが,国際機関なのです。とはいえ,実は,国際関係の研究において,国際機関の存在は,長い間,ほとんど関心を集めることはありませんでした。国際関係のなかで「主体的に,意思をもって目標を追求する行動をとるもの」を主体(アクター)と呼びます。アクターには,国家,NGO,企業などが入ります。これに対し,国際機関がアクターといえるのかどうかについては,研究者の間ではずっと否定的な見方が多かったのです。それはなぜでしょうか。国際機関は,加盟国間の話し合いの場(フォーラム)であるか,あるいは,加盟国政府の意向を受けて活動している道具にすぎないとみられてきたためです。しかし,グローバル・ガヴァナンスの進展とともに,最近では,国際機関のアクターとしての行動についての関心が高まっています。それには,主に,次のような理由があります。二つの側面をもつ国際機関―規範設定のためのフォーラムならびに行政機関として国際機関は,たしかに,加盟国間の話し合いの場(フォーラム)という側面をもっています。しかし,そこでは,単なる話し合いにとどまらない活動,つまり規範形成の役割が,近年ますます重要になっています。このような特徴は,国連総会において特に見られます。総会では,加盟国が様々な公式の条約を採択するだけでなく,条約のような拘束力は持たないが各国が従うことに合意したソフトな規範も作られて行きます。グローバル・ガヴァナンスの22