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概要

社会科navi Vol.12

領域が拡大するにつれて,そのような活動が増加しています。例えば,世界の貧困などをなくすために具体的な期間と目標を定めたミレニアム開発目標(MDGs)など,グローバル・ガヴァナンスの実施の基盤となる世界的な規範を生み出すフォーラムとなっているのです。国際機関のもう一つの側面は,保健や開発など具体的な行政サービスの提供です。おそらく,私たちが一般にイメージする国際機関は,この行政機関としての側面ではないかと思います。国際機関は,加盟国の拠出金によって成り立っており,その活動は,各国の総意から委託を受けて基本的には行われています。これを政治学では,「本人―代理人」の関係として説明します。つまり,国際機関(代理人)とは,加盟国政府(本人)によって必要な業務を委託されて行動する,いわば道具であることを表す言葉です。しかし,近年では,国際機関が,加盟国側が求めているものとは異なる行動をとることに注目が集まっています。つまり,国際機関は,国際政治上のアクターとして,国家(本人)からのコントロールを離れて行動する場合があるという見方が登場したのです。国家のコントロールを離れる国際機関国際機関のこうした行動を生み出す要因にはいくつか考えられます。第一に,国際機関のトップのリーダーシップであり,加盟国とは異なる目標や新しい政策を掲げて,追求していくことがあります。そのためには,トップが政治的に影響力のある人物であったり,主張している内容の正当性が高いことが重要であったりします。アメリカのケネディ政権で国防長官を務めたロバート・マクナマラは,その後1968年に世界銀行の総裁に就任します。マクナマラは,自らの信念もあり,それまでのインフラ建設に対して大規模な貸付をする経済援助方式を変更し,最も困窮している人々に援助するという「ベイシック・ヒューマン・ニーズ」を主張しました。これは,当初は各国政府の考えとは異なりましたが,その必要性を説くことで,徐々に政策変更を促しました。第二に,国際機関は官僚組織であるため,国内の行政機関の行動パターンと同様のものが,国際機関にもみられます。例えば,予算獲得のためには,他の機関に業務を奪われたくないという意識が生まれ,縄張り争いや縦割り行政が生じやすくなるわけです。場合によっては,組織自体の存続や拡大を目標にして行動することもあります。このような官僚組織としての特質は,加盟国のニーズから離れて新しい業務を始めたり,逆に必要な業務を行わないといった行動を生み出すことになります。例えば,戦火や迫害をのがれて居住地を追われたものの,国外に出ることができず国内に留まる人々を国内避難民と呼びます。その数は,難民の倍にもなっています。国連難民高等弁務官(UNHCR)は,難民条約に規定された通り,庇護を求めて国外に流出した人々を難民として保護しますので,国境を越えて出国していない国内避難民は当初設定された任務権限の外にあります。長年,国内避難民を保護するための体制づくりが求められてきました。しかし,そのために新しい組織を設置するならば,自らの組織の業務縮小につながるかもしれず,関連する複数の国際機関の反対にあい,これまで実現しませんでした。つまりグローバル・ガヴァナンスの進展にとって,国際機関のもつ官僚組織としての性質が制約になることがあるわけです。国際機関の活動は,今後のグローバル・ガヴァナンスにおいて不可欠になるでしょう。国際機関の活動や方針がどのように決定され,実施されるのかを理解することが重要です。著者紹介栗栖薫子(くるすかおる)専門分野/国際関係論主要著書/『国際政治学をつかむ』(共著,有斐閣,2009年),『「戦争」で読む日米関係100年―日露戦争から対テロ戦争まで』(共著,朝日選書,2012年)日本文教出版『中学社会公民的分野』教科書著者23