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概要

社会科navi Vol.12

特集主権者教育を考える『立候補者』の立場から選挙を考えさせる授業岡山県立岡山芳泉高等学校黒田和義1.選挙を多面的・多角的に考えさせるために選挙に関するシミュレーションとしては,模擬選挙という優れた実践があるが,世論が政策決定過程に及ぼす影響という観点から選挙について考察させる場合には,不十分である。なぜなら,模擬選挙において,生徒が体験できるのは『投票者』の立場から政策を吟味することであり,『立候補者』として世論を考慮しながら政策を提案するという体験ができないためである。このような課題を踏まえて,次のような設定を取り入れたシミュレーション教材「選挙ゲーム」を開発した。(図)(1)『立候補者』という設定生徒を,『投票者』としてではなく,『立候補者』として設定し,当選するための戦略的な観点から世論を考慮して政策を提案するという体験をさせる。このような設定により,従来の模擬選挙で体験する『投票者』としての視点ではなく,『立候補者』という別の視点から選挙を考察させることができる。(2)政策をめぐるジレンマ状況の設定『立候補者』として政策を考えるにあたって,「有権者の支持を得るためにはその要望に応える形で政策を提案する必要があるが,多様な有権者の要望すべてに応えることはできない」「増税という負担を強いれば有権者の支持を失う危険性があるが,政策を実現するための財源として増税という負担を有権者に負わせる必要がある」という二つのジレンマ状況を設定する。その上で,各年齢層の有権者数と投票率に差を設けることによって,『被投票者』であるプレイヤーは,当選するためには「どの有権者層の要望を政策に反映させるべきか」「どの有権者層に増税という負担を負わせるべきか」という判断をする必要が生じる。このような設定により,国民の多様な意思を政策決定過程に反映させることが選挙の機能でありながらも,『立候補者』が選挙において当選することのみを優先する場合,投票を期待できない有権者層は,その要望を軽視され,負担を強いられる危険性があるということに気付かせたい。2.実践を通して「選挙ゲーム」の実践にあたっては,まず個人で検討させた。ほとんどの生徒が,幅広い年齢層の利益につながるような政策を選び,政策の財源としては平等税を選ぶ傾向がみられた。そこで,「すべての年齢層の利益に配慮するということは,どの年齢層にもアピールできず,強い支持を得られないのではないか」「すべての年齢層に対して負担を強いるということは,どの年齢層からも支持を失う危険があるのではないか」と問いかけた上で,5名程度のグループに分けて再び検討させた。すると,ほとんどのグループが,政策については50歳以上の年齢層の要望を優先するようになり,20歳以上30歳未満の年齢層を増税の対象とするようになった。ただし,増税については,投票者数が少ない年齢層を対象とすることが戦略的には有効だと理解していても抵抗がある生徒がほとんどであった。そのため,資料(註)を用い,超高齢社会である現代日本の政治の特質として,投票者数の多い高齢者層の要望が優先される一方で,投票者数の少ない若い世代の負担が大きいという傾向があることを示したことは,生徒6