ブックタイトル社会科NAVI Vol.13
- ページ
- 22/24
このページは 社会科NAVI Vol.13 の電子ブックに掲載されている22ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「ブックを開く」ボタンをクリックすると今すぐブックを開きます。
このページは 社会科NAVI Vol.13 の電子ブックに掲載されている22ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「ブックを開く」ボタンをクリックすると今すぐブックを開きます。
社会科NAVI Vol.13
しごと図鑑奈良国立博物館の学芸員の仕事●内藤栄(ないとうさかえ)筑波大学において博士(芸術学)を取得。現在,奈良国立博物館学芸部長。専攻は仏教工芸史で,正倉院宝物や美術工芸を研究テーマとしている。著書に『舎利荘厳美術の研究』(青史出版,2010年)がある。●奈良国立博物館学芸部長内藤栄学芸員は博物館において専門的な仕事をする職員である。博物館には歴史的遺物や普通には手に入らない珍品があり,学芸員はそれらを研究し,展示,解説などの仕事を行う。博物館には美術館,動物園,水族館,植物園なども含まれるから,美術が好きな人や理系の人が活躍する職場もたくさんある。私が勤める奈良国立博物館は仏教美術専門の博物館で,国宝や重要文化財も数多くある。学芸員は16名いるが,彼らに共通することは仏像や仏画,工芸品などの文化財や考古学が好きでたまらないということである。かくいう私もその一人である。子供のころの私は仏像が好きな変わった少年だった。仏像好きが高じて将来お坊さんになろうと考えた時期もあったが,高校生の時,学芸員という職業を知った。学芸員になればじかに仏像に触れ,仏像の研究を好きなだけできる。これぞ天職と思った。そこで大学,さらに大学院で美術史を学んだ。学芸員の資格は大学で所定の課目を履修すれば取得できるが,学芸員の募集は少なかった。27歳で東京のサントリー美術館の学芸員になったが,奈良に住んで博物館に勤めるという長年の夢を叶えたのは35歳の時であった。学芸員の主な仕事は,資料の収集,保管,調査・研究,展覧会の開催,教育活動,普及活動などである。一般に博物館には広い収▲特別展「白鳳」会場奈良・薬師寺の聖観世蔵庫があり,資料が保管されている。資料には館が所有する資料のほか,外部から借りている品もある。これらをまとめて博物館資料,あるいはコレクションなどと呼ぶが,収蔵する条件は資料的な価値が高く展示にふさわしいこと,そして本物であることである。そのため,学芸員は資料が作られた国や時代,作者,材料や制作技法などを言い当て,本物と偽物を見きわめる鑑識眼を持つ必要がある。テレビでお宝鑑定の番組があるが,あの鑑定士の中には元学芸員が何人かいる。▲展覧会に出品する作品を点検する筆者しょうかんぜこのようにして集まったコレクションや,必要ならば外部の資料を用いて展覧会を開催する。展覧会は資料をただ並べれば良いわけではない。テーマに添って数ある資料から展示物を選び,それを順番に配置しないといけない。すばらしい展覧会は一篇の小説を読むようなストーリーやメッセージがある。皆さんがおん音ぼさつぞう菩薩像や東塔水煙など白鳳文化の粋が結集した展覧会で見る資料は昔の人が作ったものであるが,それらを研究して価値を見出し,解説を付けて展示しているのは学芸員である。言ってみれば展覧会は学芸員の「作品」である。学芸員が違えば同じ博物館で同じテーマで展覧会を開いても違う内容となるであろう。コレクションあっての博物館だが,学芸員がいて初めて資料に命が吹き込まれる。最後に学芸員になって良かったと感じたことをお話ししたい。私は展覧会は未知の,あるいは忘れられている「人」や「もの」,「世界」を見せることが大切だと考えている。著名な作家や作品の場合でも,見過ごされている一面が必ずある。奈良国立博物館の昨年夏の特別展「白鳳―花ひらく仏教美術―」は,近年教科書から消えてしまった「白鳳時代」を再評価しようという試みであった。白鳳文化を代表する仏像や工芸品,考古遺品など総数150点が集まり,他の時代にはない独自性があることを感じていただけたと思う。実物を通して人々に何かを語りかけ,時には大きな思い出を残せることが,学芸員としてもっともやりがいのある仕事である。22社会科NAVI 2016 vol.13