ActiBookアプリアイコンActiBookアプリをダウンロード(無償)

  • Available on the Appstore
  • Available on the Google play
  • Available on the Windows Store

概要

社会科NAVI Vol.13

リレーエッセイ佐藤幸治(さとうこうじ)専門分野/憲法学主要著書/『現代国家と司法権』(有斐閣,1988年),『現代国家と人権』(有斐閣,2008年),『日本国憲法論』(成文堂,2011年)日本文教出版『中学社会』教科書著者私の心の原風景と現代京都大学名誉教授佐藤幸治私は1937年に越後平野の一農村に生まれ,その小学校・中学校で学んだ。遠足で良寛が過ごしたくがみやま国上山中腹の草庵(五合庵)を訪れたときの印象が心に強く残った。進学した新潟高校で国語を教わった渡辺秀英先生は良寛の研究家で,卒業後も長きにわたって良寛の世界へと誘って下さった。良寛については多くの本が書かれている。良寛の生きた時代は今と大きく異なるが,間もなく八十歳にならんとする今振り返って,この良寛こそ私の(研究生活を含む)「生」を支えてきた“根”のようなものではなかったかと思う。語るべきは多々あるが,ここでは柳田聖山『沙門良寛』の一節を引用するにとどめる。「暗いところに身をひそめると,明るいところは見すかしになりますが,明るいところからは,暗い内部が見えません。人生を上から見るのと,下から見るのとでは,景色はまったくちがいます」。今世界は,グローバリゼーションの進む中で経済成長のあり方(格差拡大など)や人間の安全保障などに関わる不安を抱え,特に日本は,気の遠くなるような財政赤字と少子高齢化の進行といった事態にある。かかる状況の中で,悲惨な第二次世界大戦という経験への反省に基づき確立・強化を図られた(人間の自由・平等・平和を内実とする)立憲主義体制も,あちこちで揺らぎはじめているかに見える。昨年私は,『立憲主義について』と『世界史の中の日本国憲法』を書いたが,先行きの見えにくい時代にあればこそ,「自由・平等・平和」を求める人類の長い苦闘の歴史を振り返り,そこに顕現する人類の叡智に深く学ぶべきではないかと考えたからである。そしてそれは,少年期以来心に宿った良寛という一人の人間の「生」のあり様に導かれてのことであったように思えてならない。社会科NAVI 2016 vol.13 3