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概要

社会科NAVI Vol.14

現代社会ウォッチングvol.2外国からみる日本の政治ー中国からみる(その2)●筑波大学大学院教授辻中豊中国での出版経験から前回ご紹介した編著『現代中国の市民社会・利益団体―比較の中の中国』の中国語版にあたる本が2016年7月に中国の社会科学文献出版社から『中国社会団体と地方ガバナンス―比較の中の中国』(中文)というタイトルで出版されました。この本は北京大学との15年にわたる共同調査をもとに実証分析したもので,中国政府や共産党への批判を意図したものではありませんが,翻訳にあたっては出版社から共産党に関する記述は控えてほしいとの要請があり,それらを最小限にし,党や政府の活動に対する形容詞を外すなど丁寧に修正・編集することが必要となりました。こうしたことは表現の自由に抵触するため,日本など自由民主主義の社会では行われません。中国では,支配組織である共産党が社会の「すべての組織」(中央と地方の政府の組織から,国営・民営の企業や市民社会の団体,自治会にあたる社区というコミュニティ団体まで)の内部に党組織を形成することが原則となっています。また社会において集団や組織を自由に作ることはできません。すべての組織は政府や党の監督下におかれ,政府・党に責任をもてる組織だけが「公に活動する」ことができる仕組みになっています。このように書いてくると,とても息苦しい社会のようですが,街角のキオスクには様々な種類の雑誌や新聞が山積みで,人々は大声で議論し一見自由で活発に行動しているようです。原則に反して党組織も民間の団体や企業では2割以下でしか実際には形成されていません。ただ少なくとも政治や学問の自由という点からは制約の多い社会であることは事実です。選挙という市民が中央と地方の政府や議会の公職者を選ぶ仕組みがほぼ不在であり,メディアもすべて党の監視下にあるといってよい状態ですので,政府や党は直接的には市民を恐れる必要はありません。私たちも北京大学とともに,中国において北京市,浙江省,黒竜江省で2つの時期に合計12種の,さまざまな団体の調査を行いました。これは世界初といってもよい調査なのですが,中国側は出版にはたいへん慎重でした。それは先に述べたような自主検閲など制約が多いからです。中国でもここ20年はたくさんの世論調査や実態調査が行われていますが,学術書ですらそうした調査結果が体系的に分析され公表されることは稀です。市民(公民)社会といった言葉についても,現在の政権が誕生後,使用禁止との通達が出ています※1。1400012000100008000600040002000市民社会公民社会利益集団利益団体01990 1995 2000 2005 2010 2013(年)図1.市民(公民)社会・利益集団(団体)の検索ヒット数の推移(中国知網(データベース)のホームページに基づき,黄媚作成)世界の国々の自由度世界の様々な国と日本の関係を考えるときに,世界の半分以上の国がこうした政治的な自由のない(もしくは部分的にしかない)権威主義体制にあることを念頭におく必要があります。そのほとんどはユーラシア大陸の主要部を覆い,アフリカへと広がっています(図2)。この図に示されてい12社会科NAVI 2016 vol.14