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概要

社会科NAVI Vol.14

●辻中豊(つじなかゆたか)専門分野/政治学主要著書/『大震災に学ぶ社会科学第1巻政治過程と政策』(東洋経済新報社,2016年),『現代日本のNPO政治―市民社会の新局面(現代市民社会叢書)』(木鐸社,2012年),『利益集団(現代自由部分的に自由図2.世界の自由度(2015年)(Freedom House『FREEDOM IN THE WORLD』)自由でない最も不自由政治学叢書)』(東京大学出版会,1988年),日本文教出版『中学社会』教科書著者るのは,アメリカのNGO組織が75年間にわたって毎年続けている世界の政治的権利と市民社会の自由度を計測する調査の結果で,現在では195か国15地域に対して25項目について5段階評価をしています。太平洋に面した日本やオーストラリアから南北アメリカ,大西洋を越えてヨーロッパ諸国,アフリカの一部,インド洋に面したインドにかけて緑色の自由な国々が散見され,世界の人口や国数のおよそ4割を占めています。残りの6割ほどの国にはこうした自由度において問題をはらんでいます。私たち日本は,ちょうどその自由な圏と不自由な圏の境界沿いに存在しています。この2つの領域は,1991年までのアメリカとソ連のような冷戦状態にあるわけではありません。様々な通常の付き合い,特に経済的な相互依存関係にあります。ただ付き合い上の常識が異なることは様々な摩擦の原因です。語版と異なることに気が付かれた方もおられると思います。「市民社会・利益団体」という言葉の代わりに,「地方ガバナンス」(中国語で「地方治理」)という言葉が使われています。市民社会という言葉が,新しい政権下では使用不可だからでしょうか。むろんそれもありますが,私はこの「地方ガバナンス」という言葉に,日中の市民を結ぶ積極的な願いと可能性を込めているのです。世界の多くの国を訪ねて人々と話をすると,自由と不自由という体制の違いを超えて,強い日本への期待を感じます。日本という国というより日本という社会への,とても強い憧れと尊敬に似たものを感じるのです。もちろん私と会話する不自由な国の人々は,日本という社会をブランドとして見ている方々が多いのも事実でしょうし,若者の多くは日本のアニメやゲームのキャラクターの住む社会を日本社会そのものとみています。しかし,もう少し深く考察すると,たとえば東日本大震災後にも買い占めなどパニックを起こさ日本という社会への憧れ大学も自由な国々からだけでなく,中国など多くの不自由な国々からの学生をたくさん受け入れています。それだけでなく,私の働く筑波大学ではウズベキスタンやベトナム,チュニジアなどにも海外オフィスを置いて,より積極的な交流を行っています。前回触れたように,中国だけでなず,気遣いや思いやりをもって絆を大切にした日本という社会,人々の絆が機能する社会の仕組みを自らの国にも導入したいという気持ちを汲み取ることができます。社会科学の近年の用語では,地方ガバナンスやソーシャルキャピタルというものがこうした社会の仕組みにあたります。これらの中味については次回にお話しすることにしましょう。く権威主義体制の国々からくる学生たちは,市民社会や選挙にも関心が高く,だれよりも熱意をもって学習し研究しています。さて,こうした両国間の体制の違いを考慮にいれたうえで,何を彼らに教授し,研究してもらえばいいのでしょうか。最初に触れた小生たちの中国語版の書名が日本※1 2013年5月11日香港紙『明報』が報道した。「七不講」(7つの話してはならない項目。正式には党中央弁公庁発「第9号文件」)といわれ,大学や地方政府に通達された。1人類の普遍的な価値2報道の自由3市民社会4市民の権利5党の歴史的誤り6特権資産階級7司法の独立の7つ。習政権下での思想的引き締めの一環とされる。通達の存在は「微博」と呼ばれるミニブログで暴露された。小生の本を含め,実際には現在も言葉の学術的使用は続いているようだが,減少している可能性もある。グラフも参照(図1)。社会科NAVI 2016 vol.14 13