ブックタイトル社会科NAVI Vol.15
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社会科NAVI Vol.15
軍縮条約の内容前例のない多国間軍縮を成功に導いたのは,会議の冒頭,ヒューズ国務長官が提起した大胆な構想であった。ヒューズは,主力艦建造計画の中止と老齢主力艦の廃棄を提案し,アメリカが約85万トン,イギリスが約58万トン,日本が約45万トンという具体的かつ膨大な廃棄案を提示した。それと同時に示されたのが,米・英・日の主力艦保有比率(トン数)を5:5:3とする構想であった。誤解されがちであるが,この比率は条約の成立によって直ちに実現するものではなかった。最終的に条約で定められた当面の主力艦保有量は,保有量A(下表)であり,日本の保有量は対アメリカでは60パーセントだが,対イギリスでは52パーセントにとどまる。5:5:3となるのは保有量B(下表)の段階であるが,それは10年間の建造休止期間の後に行われるとされた艦齢20年を超える艦の代艦建造が完了した時点であった。条約は,各国が制限一杯の基準排水量3万5000トンの代艦を建造することを想定しており,それが完了するのは1942年のこととされていた。ワシントン海軍軍縮条約の効力は1936年末までであったが,条保有量A保有量B隻数トン数隻数トン数イギリス22 580,450 15 525,000アメリカ18 500,650 15 525,000日本10 301,320 9 315,000フランス10 221,700 5 175,000イタリア10 182,800 5 175,000▲主力艦保有比率▲軍縮条約締結後に武装撤去が決まり,30センチ砲が取り外される戦艦敷島(1923年撮影,提供朝日新聞社)約の内容は20年間にわたり各国海軍を規定するものだったのである。よく知られるように,5:5:3の比率は,対米7割を主張する日本海軍の目標を挫折させるものであったが,実のところアメリカ海軍は日本の保有量を5割に抑えることを望んでいた。さらに条約には,日本が提案した太平洋の防備制限が盛り込まれ,西太平洋における日本海軍の優位が事実上保証された。その意味でワシントン海軍軍縮条約は,参加各国の妥協の産物であった。しかし同条約は,少なからぬ日本海軍の少壮将校にアメリカに対する不信感を植えつけ,1930年代の日本は彼らのリーダーシップの下に,ワシントン海軍軍縮条約からの脱退に突き進んでいくのである。●高岡裕之(たかおかひろゆき)専門分野/日本近現代史主要著書/『総力戦体制と「福祉国家」-戦時期日本の「社会改革」構想』(2011年,岩波書店),「高度成長と文化運動-労音運動の発展と衰退-」(『高度成長の時代3成長と冷戦への問い』所収,2011年,大月書店),「戦争と大衆文化」(『岩波講座日本歴史18近現代4』所収,2015年,岩波書店)など日本文教出版『中学社会』教科書著者社会科NAVI 2017 vol.15 11