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概要

社会科NAVI Vol.15

●辻中豊(つじなかゆたか)専門分野/政治学主要著書/『大震災に学ぶ社会科学第1巻政治過程と政策』(東洋経済新報社,2016年),『現代日本のNPO政治―市民社会の新局面(現代市民社会叢書)』(木鐸社,2012年),『利益集団(現代政治学叢書)』(東京大学出版会,1988年),日本文教出版『中学社会』教科書著者図2.アメリカ大統領選挙(2016年)共和党民主党(出典:USA Today)問題,国際貿易と産業基盤の問題は,一般の多くの有権者の目線では,自分たちの住むコミュニティの将来の問題として考えられたのです。そして赤色の地域,5万人未満の都市や農村に住む高学歴でない白人の多数がトランプを支持したのです。アメリカからみた日本のコミュニティ(市民社会)広報,警察や消防の注意喚起,赤い羽根や緑の羽根など様々なお知らせが載せられ,挟まっています)や街角にある「屋外掲示板」(最近はあまり注目されませんが,近隣のお知らせが掲示されています)に感動したといいます。そして,子供たちが子供会に参加し,毎日,並んで集団登校する様子にも驚いていました。つまり,こうしたものはアメリカにはないので感動したのです。大統領選挙の隠れた争点であったコミュニティのあり方,将来が,ソーシャルキャピタルや地方ガバナンスとどう関係しているのでしょうか。私は,日本の市民社会や政治を比較の視野の中で考えようと,20年ほど世界の15か国の地域で調査をしてきましたが,そのきっかけになったのはアメリカに滞在した2年間の研究生活でした。アメリカの多くの人々もコミュニティを大切に考えています。小さな大学町であったイサカ(ニューヨーク州の小さな市)にも,ワシントンD.C.のような都市にもファーマーズマーケット呼ばれる近郊の人々が品物を持ち寄って販売するフリーマーケットのような手作りの簡易市場が定期的に開かれ,人々の触れ合いが感じられます。他方で,そうした近隣住民関係が急速に崩れているとの強い危機感があるのも事実です。ある時,若い優秀なアメリカ人のハーバード大学の院生(現在はワシントン大学教授)が小生のもとにやってきて,日本の市民社会に関心があると言いました。特に,日本の自治会や町内会,子供会や婦人会,老人会など近隣住民の市民社会に関心があると言いました。後で聞いたことですが,自治会・町内会の班の間で回ってくる「回覧板」(そこには市の広報やさまざまな公的・準公的な団体の政治や社会の仕組みとコミュニティ一見なんの関係もないようなコミュニティと国の政治や社会の仕組みには,実は強い関連が潜んでいます。日本には30万の自治会・町内会があり,98%以上の市町村が連携しています。それらに関連して多くの団体(子供会や老人会,スポーツクラブ)もありますので,コミュニティは100万を超える集団があります。現在では,少しずつ参加する人が減っていますし,こうした集団への参加を負担であると考える人も増えています。他方で,日本の政治の規模を公務員数で測ると先進国では最も小さいことに驚きます。また大きな震災が襲っても,コミュニティの住民相互の結びつきや協働の力で日本の社会が安定していると評価されています。こうしたことを,日本はコミュニティでのソーシャルキャピタルが高く,地方ガバナンスが効果的であると評価することも可能です。このように日本の社会や政治は,他の国のあり方と比較する中で,いろいろな側面が浮かび上がってきます。今回は,日本の仕組みの頑強さを述べましたが,他方で,いろいろな問題点も存在します。次回はその点も含め考えたいと思います。社会科NAVI 2017 vol.15 13