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概要

社会科NAVI Vol.16

ワールドシネマみんぱくvol.16 ワールドシネマ・スタディーズのすすめ●国立民族学博物館准教授 鈴木 紀 本書は序文以下7章から成る。各章のタイトルは「みんぱくワールドシネマ」の各年のテーマに対応している。収録した映画のキーワードは社会的包摂である。これは社会的に排除されがちな少数派の人々と多数派の人々が対等な関係を築くことを意味する。より具体的なキーワードは,移住・家族・支援の3つになるだろう。全ての映画がこのどれかに関連しているし,中にはこのうちの2つ,あるいは3つすべての要素を持つ映画もある。 たとえば,移住と家族を扱った映画として「イロイロ ぬくもりの記憶」(第7章掲載,当連載第11回で紹介)がある。この映画は,シンガポールでメイドとして働くフィリピン人女性テレサと,彼女が住み込むシンガポール人家族との交流を描いている。特に一人っ子の小学生ジャールーの心の成長が見ものだ。彼は,日頃の寂しさからテレサにも心を開かなかった。しかしテレサが我が子をフィリピンに残してきたことを知り,自分の孤独と同じものを彼女が抱えていることを感じて,テレサを慕い始める。こうした家庭のシーンから世界の動きを感じることもできる。フィリピンの地方出身で,家族を養うために外国に移住せざるを得ないテレサと,メイドを雇って共稼ぎをするシンガポール人家族の間に世界的に拡大する経済格差を見ることができるだろう。『ワールドシネマ・スタディーズ』の概要 「みんぱくワールドシネマ」は,みんぱく(国立民族学博物館)が開催する映画会の名称である。みんぱくの機関研究「包摂と自律の人間学」と連携し,<映像に描かれた「包摂と自律」>をテーマに映画を上映してきた。 昨年『ワールドシネマ・スタディーズ:世界の「いま」を映画から考えよう』が勉誠出版より出版された。同書は,平成21年度から27年度までの7年間に「みんぱくワールドシネマ」で上映した33 本と,ヨーロッパおよび南アジア展示場のリニューアルイベントとして上映した6本の計39 本の映画の内容と見所をまとめたものである。本稿ではこの本の概要を紹介したい。▲ 映画「ヒア・アンド・ゼア」の舞台となったメキシコ,ゲレロ州の地方都市の市場 (2012年11月,撮影:小林貴徳)ワールドシネマ・スタディーズ:世界の「いま」を映画から考えよう小長谷有紀・鈴木 紀・旦 匡子 編勉誠出版,2016 年(本体2,200 円+税)16 社会科NAVI 2017 v ol.16