ブックタイトル社会科NAVI Vol.16
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社会科NAVI Vol.16
●鈴木 紀 (すずき もとい)開発人類学,ラテンアメリカ文化論『国際開発と協働:NGO の役割とジェンダーの視点』( 共編著, 明石書店,2013 年),『ワールドシネマ・スタディーズ:世界の「いま」を映画から考えよう』(共編著,勉誠出版,2016 年)国立民族学博物館(みんぱく)では,映画会「みんぱくワールドシネマ」を不定期に開催しています(映画会は無料ですが,展示観覧券が必要です)。詳しくはみんぱくのホームページhttp://www.minpaku.ac.jp/museum/event/fs/をご覧ください。専門分野主要著書 本書に収録した映画はすべてフィクションである。しかしフィクションであるがゆえに,現実の社会問題を鋭利に切り取って物語に構成しなおした作品が多い。世界の人々がいま直面している問題や感じていることを知るためには,良質の映画の鑑賞はきわめて有効である。映画を社会科の教材として活用するために,本書が一助となることを願っている。教材としての映画▲「 みんぱくワールドシネマ」第 33 回「サ ンドラの週末」上映後の対談。作家の 宮下隆二氏(右)にインタビューする筆者 ( 左)(2016年3月20日)? 映画「ヒア・アンド・ゼア」の舞台となった メキシコ,ゲレロ州の山岳地帯の風景 ( 2012年12月,撮影:小林貴徳) 移住と支援というテーマでは「,君を想って海をゆく」(第4章掲載)をあげておきたい。舞台はフランス北端,イギリスに面したカレの街だ。物語は,ロンドンにいる恋人に会うためにドーバー海峡を泳いで渡ろうとするクルド人青年ビラルと,彼に水泳を教える元メダリストのフランス人,シモンを軸に展開する。フランス政府は,市民が不法入国者を支援することを禁じているが,一部の市民はその支援のためのNGO を組織し,政府批判に熱心だ。シモンは,水泳コーチという個人の立場から,偶然知り合ったビラルの夢の実現に協力する。この映画が制作されたのは2009 年だが,その後も増加する不法入国者の処遇は,フランスを始めとするヨーロッパ諸国の喫緊の課題でありつづけている。シモンの態度は,「排除か受容か」で揺れる難民・移民問題の政治論争からは距離をとり,個人として何ができるかを提示している点で注目に値する。 移住,家族,支援の3点に及ぶテーマを扱う映画としては,「ヒア・アンド・ゼア」(第6章掲載,当連載第9回で紹介)がある。アメリカ合衆国での出稼ぎを終えて故郷のメキシコの村にもどったペドロが,再びアメリカを目指すまでの数年間を描いた映画である。音楽好きのペドロは仲間とバンドを組んで,ミュージシャンとして生計をたてることを夢みた。メキシコでは,誕生日や結婚式にバンドを呼んで,その場を盛り上げることが珍しくないからだ。しかしバンド活動は軌道にのらず,2人の娘たちの学費や妻の病気の治療費の支払いに困窮するようになる。そればかりか,メキシコ農村特有の相互扶助関係にも支障が生じ,支援を求められても,それに答えられないもどかしさをペドロは経験する。こうして彼は,家族を守り,支援のネットワークに留まれるように,再び国境の北側で不法就労を目指す。トランプ政権下,メキシコ人不法移民の取り締まりが強化されつつある現在,この映画は,個々の移民の事情を想像するための格好の素材となる。彼らが渡米するのは,アメリカ人の雇用を奪うためでないことは明らかである。社会科NAVI 2017 v ol.16 17