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概要

社会科NAVI Vol.16

「世間のない」市場競争の国,アメリカ 前回,アメリカ大統領選挙の隠れた争点は,いかにコミュニティを維持するか,崩壊を食い止めるか,多様な人々からコミュニティをいかに創りだすかであったのではないかと指摘しました。●筑波大学大学院教授 辻中 豊 アメリカには「世間がない」というのはどういうことでしょうか。世間とは明治期に社会という言葉が導入される以前から日本にある,社会,世の中,世の中の人々,人の世を指す言葉ですね。元は仏教用語のようですが,いずれにせよ,彼女が感じているのは,アメリカには日本人が感じる社会がない,ソーシャルキャピタル(社会関係資本)のあるコミュニティ,社会のもつ一体感が存在しないように見えるということです。人々はそれよりも,cause(大義), idea(理念), interest(利害),concern(関心)などと表現される主義主張に基づいて自らの公共的なものを定義し,社会全体を意識せず、社会での評判に囚われずに行動しあっているということです。 言い換えれば,アメリカに存在するのは,いわば個人が単位となった個人主義の市場です。商品など取引に見られる経済の市場はいうまでもなく,市民の社会でも政治でも同じように市場があり,そこで人々は競争し合っています。人々のつくる人間関係としてのソーシャルキャピタル,そして人々がソーシャルキャピタルを育むコミュニティが乏しいこと,その代わりに考え方の違いの自由競争が社会でもいつも激しく行われ,その一つの大きな結果がトランプ大統領の誕生だ,ということでしょう。前にも書きましたが,多くのアメリカ人も,地域のコミュニティを大事にしていますし,フリーマーケットなど触れ合いの機会もたくさんあります。ただ,それが急速に壊れてい 最近,アメリカでジャーナリストをしている筆者の教え子の一人から,トランプ政権以後のアメリカについて,次のようなメール※1をもらいました。「日本との違いでいつも思うのは,個人主義とそれぞれが持つ経済,価値観,イデオロギーの違いが天と地ほどの開きがあるということです。極貧からビル・ゲイツまでの差,中絶を殺人と固く信じている人,銃を国家との対峙で重要な権利と固執する人,イスラムやヒンズー,仏教を信じる人,個人にお金を戻した方が有効に使えると考え政府の役割をなるべく限定しようとする人,さまざまな国からの移民。利益追求と,フィランソロピー(筆者註,社会貢献)。日本のように「世間」というものがなく,世間がどう思うかは,ほとんど個人,団体,企業の行動を縛らない点。世間,近所のつながりというものはほとんど存在せず,市民社会(市民団体)はそれぞれの関心(宗教,社会問題,スポーツ,民族,子育てなど)によってつながりあっているというのが印象です。いろいろな人が書いていると思いますが,トランプ勝利の背景は,技術革新とグローバリゼーションによる経済・産業構造の変化の中で置き去りになった人たちの苦境を政治が解決してこなかったことだと思われます。」現代社会ウォッチングvol.4▲ アメリカのトランプ大統領批判のデモ外国からみる日本の政治ーアメリカからみる (その 2 )そして次の比較へ20 社会科NAVI 2017 v ol.16