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概要

社会科NAVI Vol.16

ある。メタン発酵は処理量とほぼ同量の廃液が発生し,その処理に課題が残っている。本システムでは,廃液は発生しない。また,堆肥のようにメタン発酵に向かないものも処理が可能なのだ。燃焼灰やシステムの排気も含め,発生するものを全て利用する,超循環型のシステムである。 ここでシステムフローを紹介しよう。P.22 上図を参照願いたい。 まず,家畜排せつ物を堆肥盤で好気性発酵し,堆肥化する。80%以上あった水分を50 ~ 60%にまで下げる。この状態で 1 投入サイロから 2 乾燥機へ投入。乾燥機の熱源はシステムの排気である。堆肥はここで水分30%まで乾燥し, 3 搬入ラインを通り,いったん,4 燃料貯蔵サイロで貯蔵,5 燃焼炉へ定量供給され,燃え続ける。スタート時には燃焼炉の点火バーナー,二次炉の補助バーナーを焚くが,燃焼が安定すればバーナーなしで堆肥は自然燃焼する。燃焼により,堆肥は燃焼ガスと燃焼灰に変化。燃焼ガスは二次炉で有害成分も完全に燃焼する。この燃焼ガスのエネルギーを利用して,6 ボイラーで熱交換し,温水や蒸気を発生させる。給湯はもちろんのこと,ハウス熱源としての利用が可能である。熱交換後の排気も乾燥熱源として利用する。燃焼灰は堆肥化前の家畜排せつ物と比べると約5.7%に大幅に減量化。肥料成分としては,日本ではそのほとんどを輸入にたよっている,貴重なリンとカリを少なくとも5%ずつ含み肥料として利用できる。 本システムを使うことにより,気候や地形の関係で作物栽培が困難な地域でも,家畜排せつ物があれば農業用ハウスを利用した農業が可能になる。つまり,この地域の資源を利用したエネルギーの地産地消である。これにより日本に新たな農業の形態が生まれるのである。 システム利用の例として,約39t/日の家畜排せつ物を直接燃焼した場合,エネルギーとして発電5,000kW/ 日, 温水10,000t/日の利用が可能(稼働時間8時間/ 日)となる。堆肥を燃料とすることにより削減される二酸化炭素は,年間およそ367t である。これはスギの木39,330本分にもおよぶ。そしてなにより年間およそ538t(ある町の畜産業者8 社での過剰分)の未利用資源である家畜排せつ物の再生利用が可能となる。燃焼後は約108 t まで大幅に減量化するため,保管・持ち運びにも容易だ。 本年は,改良した新型の牛糞堆肥バイオマス燃焼炉での燃焼試験を開始し,データ蓄積後,大型化を計画している。本システムの完成を心待ちにしているという問い合わせが,全国各地から約150 件きている。実際に,「大量の家畜排せつ物を消してしまいたい」という声も多くあり,減容化に貢献できる本システムの確立が急務となっている。加えて,家畜排せつ物を燃焼し臭気の問題を軽減することで,地域の観光業がより一層さかんになるであろう。このシステムから生まれた,地域で生産したエネルギーを地域で消費していくことで,環境負荷を軽減し,地域経済にもよい影響を与えている。大きな課題の解決も,身近な課題解決からその一歩が進んでいくのである。 畜産現場の声に応え,日本の家畜排せつ物処理の問題解決に少しでも近づけるべく,「誰かがやらなければならないのなら,私がやる!」という気持ちで,今後本システムの更なる開発に取り組んでいく所存である。 そして私たちは,未来の子どもたちのため,より身近な環境課題の解決を図るため,エネルギーの地産地消という大きな課題へ挑戦現状と今後 し続けていく。● 問い合わせ先 日本家畜貿易株式会社 〒089-1247 北海道帯広市昭和町東5線 113 番地 TEL:0155-64-5735 FAX:0155-64-5736 E-mail:jlt@axel.ocn.ne.jp社会科NAVI 2017 v ol.16 23