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概要

社会科NAVI Vol.16

「能」は,ユネスコ無形文化遺産に登録された,日本を代表する古典芸能です。世界最古の仮面劇とも言われていて,観阿弥・世阿弥親子によって大成された,約700 年前からずっと途切れることなく上演され,伝え続けられてきた芸能です。 能は,歌と舞,すなわち「謡(うたい)」と「舞」で構成されています。能を演じる人を能楽師と言いますが,能楽師のなかには役が4つあり,主役を演じるシテ方,脇役を演じるワキ方,滑稽劇の狂言方と楽器演奏を担当する囃子方です。囃子方にも4つあり,笛方,小鼓方,大鼓方,太鼓方にわかれます。それぞれ専業で,生涯一つの役のみを担当します。能楽師の仕事は,能の公演に出演し能を演じることと,一般の方に能の指導をすることの大きく二つにわけられます。  能は,室町時代に足利義満によって庇護され,豊臣秀吉が能の愛好家となり,江戸時代には武家の式楽(儀式用に用いられる芸能)になり,「サムライの芸能」として武家社会とともに歩み続けてきました。しかし,明治維新により武家社会が崩壊すると,一時存続の危機を迎えますが,武家に代わり華族や商人により守られました。私の先祖は,代々京都で大名貸の両替商を営んでおりました。曾祖父が趣味として能の謡をたしなんでいた姿を祖父が見て,生業として能の道を志してから家業となり,父,私と継いできました。能を始めたきっかけがあったというよりは,生まれたときにすでに能楽師だったということです。 能は,私のように,能楽師の家に生まれた子どもが能楽師になることも多いですが,能に出会い,一般の家庭から能楽師を目指す人もいます。私が大学で教えている能のクラブからも能楽師になり,現在,能の世界で頑張っている人もおります。能楽師の仕事をするうえで私にはいろいろな立場があります。能楽師として一個人の自分,能楽師の父(息子がおりますので)としての自分,能楽・山本家一門のリーダーとしての自分,大阪の能楽師としての自分,日本のなかでの能楽師としての自分。社会との関係を広げて行くなかで,必ずさまざまな課題があり,それぞれの立場として超えなければならない大きなハードルがあります。「大変」と言えば大変ですが,苦労ではありません。私自身が苦労と感じていないのかもしれませんが。 伝統を守るということは,新しい何かを見出し,それに向かい進み,そして信念を持って貫くことだと思います。現代は激動の時代です。グローバルでボーダレスな時代を迎え,人の価値観も多様になり,答えは一つではなくなってきています。そのような時代のなかで,700 年前から変わることのないこの能楽を伝えていかなければなりません。  能の中には,国語,社会,音楽,体育など,学校の教科の中のさまざまな要素が含まれています。約10 年前から,子どもたちが能をテーマにした造形遊びを楽しんだあと,能を鑑賞する図工の要素を取り入れたプログラムの開発に取り組んでいます。押しつけではなく,子どもたちの自発的なやる気Q お仕事をされていて,たいへんなことはどんなことですか。AQ 子どもや先生方向けに取り組まれていることを教えてください。A能を始められたきっかけは,何ですか。QA能楽師とは,どんなお仕事ですか。QA●観世流能楽師 山本 章弘しごと図 鑑●山本 章弘(やまもと あきひろ)1960 年(昭和35 年)生まれ。56才。幼少より父や祖父から能の指導を受ける。国際交流基金地球市民賞など受賞多数。能楽師の仕事▲ 能「忠信(ただのぶ)」を演じる本人24 社会科NAVI 2017 v ol.16