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概要

社会科NAVI Vol.16

を促し,心から楽しんでもらうことを目的にしています。例えば,「土蜘蛛(つちぐも)」を鑑賞するプログラムでは,客席いっぱいに,子どもたちが蜘蛛の巣をはりめぐらせたなかで鑑賞しました。現在,文化庁の事業で,全国の小学校・中学校・特別支援学校で能を鑑賞する授業をさせていただいておりますが,公演の前に,能舞台の鏡板(能舞台の正面の羽目板)に描かれる老松の葉の一枚一枚を子どもたちに描いてもらって老松を作り,その前で上演したこともあります。いつもの体育館が自分たちの手で“ 能が演じられる特別な場所に変わる” そのワクワクした気持ちを大切にしています。能の演技は無形のものですが,子どもたちが作った作品は有形です。大人になって机の引き出しの奥から自分の作品が出てきた時に,子どものころに見た能を思い出す。その時,また能を観たいな,と思っていただければ,と願っています。 能のアプリは,学校の先生方を対象にした能の体験講座のなかで,特別支援学校の先生からのご発案で生まれました。学校にあるタブレットで,ピアノやギターのアプリのように,能の楽器が演奏できたら, 子どもたちが楽しめるのに, と。それを聞いていた私の弟子のブルガリア人のペトコ君が, 1 週間後に原型を作ってくれて驚きました。最初は,能の楽器演奏が楽しめる「OHAYASHI sensei」,次に能について学べる「We Noh」,謡を学べる「Super Utai」,そして「山本能楽堂の字幕アプリ」の4種類をこれまで開発してきました。無料でダウンロードでき,日本語と英語を選べますので,外国の方にも気軽に楽しんでいただくことができます。  アプリの開発を一緒にしているペトコ君と知り合って10 年近く経ちますが,彼から,ブルガリアをはじめ東・中央ヨーロッパでは,昔から親日家が多いにも関わらず「本物の日本文化」が上演される機会が少なく,残念だと聞きました。それなら私たちが公演を行い,能の魅力を伝えようと毎年,公演やワークショップを行っています。一昨年は,ブルガリアの俳優さんたち10 名が能の稽古をして出演し,大きな反響を呼びました。また,昨年はヨーロッパ三大演劇祭の一つであるシビウ国際演劇祭に,初めて招聘を受け,上演し喝采を浴びました。シビウ演劇祭の▲ 大阪の玄関口・グランフロント大阪で,15か国20名の子どもたちと新作能「水の輪」を共演。特設した円形の能舞台のまわりに,全国の2000人の子どもたちが,松の葉に「水のカタチ」を描いた14本の大きな老松を仕立てた。Q 今後の夢を教えてください。A総監督さんからは「日本の伝統芸能が世界で最も優れた舞台芸術である」とご評価いただきました。 山本能楽堂は今年90 年を迎えますが,約10年前から大阪市,大阪商工会議所,大阪観光局と一緒に,能だけでなく,文楽,上方舞,落語,講談,浪曲等大阪に伝わる地域資源である「上方伝統芸能」を一晩に4種類,ショーケース的に紹介する公演を行っており,上方伝統芸能全体の情報発信施設としての役割も担っています。地域のまちづくりイベントにも場所を開放しており,さまざまな方々が山本能楽堂で交流し,そこから新しい芸術やアイディアが生まれる地域のランドマークの役割を持ち始めています。 能は約700年前から途切れることなく上演され続けてきました。今後さらに700年伝えていくためにも,連綿として続く能の歴史のなかで「今」の時代を担ういわば歯車として,この時代にできることに真摯に取り組み,次の世代に能を魅力ある芸術として継承していければと思います。▲ 山本能楽堂の能舞台公益財団法人 山本能楽堂〒540-0025 大阪市中央区徳井町1-3-6 TEL 06-6943-9454公式ホームページhttp://www.noh-theater.com/社会科NAVI 2017 v ol.16 25