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概要

社会科NAVI Vol.17

現代社会ウォッチング vol.5●筑波大学大学院教授 辻中 豊 前回,世界各国のうち,世界十位(1.26億人)にあたる日本と人口規模という点から似た国として,8位のバングラデシュ(1.61億人),9位のロシア(1.43億人)をとりあげると述べました。日本の45倍の広さのロシア,日本の4割と小さいバングラデシュの両国が,日本より少し大きい人口を擁しています。ちなみに,太平洋を挟む隣国であるメキシコは11位で1.22億人,フィリピンは12位で1.04億人です。これまで触れてきた中国,アメリカを含め日本と海を隔てた隣国は人口という点で大国が多いですね。 しかし,国土,人口密度,気候風土,歴史といった様々な点で,これらの国々はお互いに大きな違いがあります。このエッセイでは,市民社会,とりわけ近隣地域であるコミュニティや人間関係を示すソーシャルキャピタルが政治と民衆の関係を考えるうえで,特に民主主義を考えるうえで重要ではないか,と示唆してきました。それゆえ日本のそれぞれの隣国は政治的にも極めて多様だろうと考えられます。 初冬のロシアを訪問する途上,飛行機から外の景色をうとうとしつつ何度か眺めると,荒涼としたシベリアの大地がいつまでも続くのに驚きました。北極海かと見間違うほどの,雪氷と湖と大河の大湿原地帯が広がっています。この広大な国土に百数十もの民族集団(スラヴ系が83%)が26▲ ロシア,初冬のシベリア外国からみる日本の政治ーロシアと バングラデシュの公用語と100近くの多様な言語を用いつつ,暮らしています。また中国,モンゴル,カザフスタン,ウクライナ,ポーランド,エストニア,フィンランドなど世界最多の10数か国と接していることも特徴です。ところが人口はわずかに日本の1.1倍,人口密度は約40分の1で,しかもこの25年間,人口減少が続いています。そして資源に恵まれながらも1人当たりGDPは日本の3割前後です。 広大なロシアは,多民族を基礎とした85の構成主体からなる複雑な連邦制度を採用しています。社会主義体制の崩壊後1990年代には自由主義(経済)の世界に入るかと思われましたが,2000年にプーチン政権が登場した後,急速に権威主義化が進み,国際NGOであるFREEDOM HOUSEによれば,政治的には市民の権利保障もメディアの自由も不十分な「自由のない政治体制」※1に戻っています。広大で人口希薄な多民族国家ロシアにおいて,指導者が常に念頭におくのは安全と統合の問題です。国際的な大学間会議においてロシアの学者たちは常にプーチンの意向を忖度して神経質に行動しているように見えました。 つまり政治の基盤となる市民社会,ソーシャルキャピタル(社会的な人間関係)の在り方が日本などとはずいぶん異なるのです。市民社会の質が ロシア―縮みつつある広大で多様な 権威主義大国日本の隣国は人口が大きく,また極めて多様14 社会科NAVI 2017 v ol.17