ブックタイトル社会科NAVI Vol.17
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社会科NAVI Vol.17
世界遺産に登録されることは,いまや観光の切り札として,その登録には,政治をあげて取り組まれている。 確かに,世界遺産への登録は,観光振興に大きく寄与している。しかし,世界遺産登録の根拠となっているのは,世界遺産条約である。その正式名称は,「世界の文化遺産及び自然遺産の保護に関する条約(Convention Concerning the Protection of theWorld Cultural and Natural Heritage)」であり,その目的として,「文化遺産及び自然遺産を人類全体のための世界の遺産として損傷,破壊等の脅威から保護し,保存するための国際的な協力及び援助の体制を確立することを目的とする」が掲げられている。 ここには,観光や活用という言葉はなく,損傷,破壊等の脅威から遺産を保護し,保存するための国際的な協力と援助が求められている。近年の世界遺産登録への多くの動きは,この世界遺産条約の精神をどれほど堅持しているだろうか。 H erita g e の日本語訳を「遺産」とするのはまったく間違いとはいえないが,日本語の語感とは少し異なり,後世に受け継がれていくもの,未来に残すべき先祖伝来のもの,といった意を持つ言葉である。 日本遺産はJapan Heritage と英訳されているが,「地域の歴史的魅力や特色を通じて我が国の文化・伝統を語るストーリー」を日本遺産とするとされ,そこには文化財の保存・保護,後世への継承といった視点はまったく記されていない。その意味で,日本遺産の場合,少なくとも英訳にHeritage の語をあてるべきではないだろう。 過度の活用を推し進めた結果,文化財が滅失あるいは大きな損傷を受けてしまえば,多くの場合,その復原は困難を極める。観光推進,遺産の活用を進めるときも,「遺産」を後世へ継承するには保護・保存の精神を第一義とすべきではないかと思う。「世界遺産条約」の精神京都大学名誉教授 藤井 讓治リレーエッセイ藤井 讓治(ふじい じょうじ)専門分野/日本近世史主要著書/『江戸幕府老中制形成過程の研究』(校倉書房,1990年),『天皇の歴史5 天皇と天下人』(講談社,2011年),『日本近世の歴史1 天下人の時代』(吉川弘文館,2011年),『シリーズ 日本近世史1 戦国乱世から太平の世へ』(岩波新書,2015年)など日本文教出版『小学社会』『中学社会』教科書著者社会科NAVI 2017 v ol.17 3