ブックタイトル社会科NAVI Vol.18
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社会科NAVI Vol.18
国立民族学博物館(みんぱく)では,2月10日(土)の映画会「みんぱくワールドシネマ」で,「テレビジョン」を上映します(無料。ただし,展示観覧券が必要です)。詳しくはみんぱくのホームページhttp://w w w.minpaku.ac.jp/museum/event /fs/をご覧ください。●南出 和余 (みなみで かずよ)文化人類学,バングラデシュ地域研究『「子ども域」の人類学―バングラデシュ農村社会の子どもたち―』(昭和堂,2014 年),『「学校化」に向かう南アジア―教育と社会変容―』(共編著,昭和堂,2016 年)専門分野主要著書ほかラーム信仰の厳格さは,いわゆる原理主義的イデオロギーを彷彿とさせるものではない。周りの村人たちも,そんな主人公をどこか慕い,逆らわずとも従わず,時に目を盗み,あの手この手の知恵をしぼって何とかすり抜けようとする。その交渉は機知とユーモアに富んで滑稽でさえある。映画の後半,息子スレイマンは,父親の厳格さと彼女への思いに挟まれ,意を決して反旗を翻すが,すぐに罪悪感に苛まれて父親に詫びて泣きつくのである。 この,強さの中にある弱さ,弱さの中にある温かさと憎めない人懐っこさには,バングラデシュの人々の,宗教や民族を超えた人間味が感じられる。「正しいムスリム」の在り方を求める中にも「正しさ」だけでは説明できない豊かさがある。バングラデシュの約9割の人々にとってムスリムとしてのアイデンティティは重要でありつつも,それは同じ民族のヒンドゥー教徒との対比や,東パキスタン期にはベンガル・ムスリムのイスラームの不純性が西パキスタン(現パキスタン)からの差別の対象でもあった。しかし,宗教は他者との比較や「正義」ではなく,自然のなかで,現代社会のなかで,ひいてはグローバル社会のなかで生きていくうえでの人々にとっての支えでありアイデンティティであればよい。本映画はバングラデシュからのそのようなメッセージを代弁しているかのようである。▲ みんぱくワールドシネマ・チラシベ「ベンガル・ムスリム」というアイデンティティンガル民族でイスラーム教徒(ムスリム)が人口の約9割を占めるバングラデシュ。国家の歴史を振り返ると,1947年のインド・パキスタン分離独立においてはイスラームを旗印に同じ民族が暮らすインド西ベンガル州とは袂を分かって「東パキスタン」に,そして1971年にはベンガル(とくに母語のベンガル語)をアイデンティティにバングラデシュとして独立した。人々は「ムスリムであること」「ベンガル民族であること」そして「バングラデシュ人であること」の本質を問いながら,同時にグローバル社会で生きていく道を模索している。本作をそのような視点から見ると,宗教だけでは捉えきれない「バングラデシュらしさ」を感じる作品である。 本作の舞台であるノアカリ県は,洪水などの自然災害に頻繁に見舞われ,国内でも貧困のイメージが強い地域である。人々の信仰心は強く,また方言に特徴があることでも知られている。本作がノアカリ県を舞台としていることは,イスラームを「対近代」というある種のステレオタイプの俎上に乗せている。 そうした土地柄を背景に,主人公は,テレビや携帯電話を否定し,家族や村人たちに対して聞く耳を持たない「厄介なリーダー」でありながらも,どこか憎めない。彼のイス社会科NAVI 2018 v ol.18 11