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概要

社会科NAVI Vol.18

現代社会ウォッチング vol.65●筑波大学大学院教授 辻中 豊 2017年には,2月と12月の2回,ベトナムで「公共政策過程」の集中講義をする機会がありました※1。これまで10か国を超える国の市民社会の調査をし,また大学の国際交流の仕事もあって30を超える国々を訪れましたが,ベトナムはもっとも親近感を覚えた国の一つです。 おそらく人と人の関係,この連載ではソーシャルキャピタル(社会関係資本)と呼んできたものの在り方が近いからのように思います。年二度の米作りをする農村の姿や,人々の顔かたちも,日本人と共通するものがあります。 国の「形」が近いこともその原因の一つでしょう。ベトナムは33万平方キロと日本より少し小さいものの,ほぼ同じような南北に長い国,国民は9600万人で,キン(越)族が86%を占めます。53と多くの少数民族を抱えており,この点は日本と異なります。国としての歴史は,紀元前207年建国の南越国に発するとされ,その後前111年,前漢に征服された後,およそ1000年間,中国の諸帝国の支配をうけます。10世紀に独立し,およそ950年の間にいくつかの王朝が続き,19世紀末にフランスの植民地となります。第二次大戦中しばらく日本が進駐し,大戦後に再び侵入したフランスとの戦争をへて近代国家として独立,東西冷戦下で南北に分かれ,アメリカとのベトナム戦争をへて1976年に再統一した,こう書くと,日本の歴史よりずいぶん複雑ですね。 ただ政治の土壌となる社会でのソーシャルキャピタルの存在,つまり人間の関係における信頼,お互い様の感覚,さまざまな人々と集団のネットワークの在り方には日本と近いものが存在します。院生たちは,日本の経験からベトナムの社 このように,日本と似た雰囲気の社会が,なぜ全く異なる政治体制に至ったかは,日本の政治とは何か,また政治の発展とは何かを,考えるうえでも大切です。同様の「なぜ」なのだろうという感覚は,ほかのいくつかの国でも感じました。例えば,トルコやメキシコ※2もそうでした。 親日的な国の一つとされるトルコは,日本の大日本帝国憲法(1889年)に先立って非西洋諸国で初といってよい近代憲法(オスマン帝国憲法)を1876年に制定しながら,1年後に憲法を停止した国です。日本からも刺激を得て1923年には西洋型近代化を目指す世俗主義的なトルコ共和国が成立しました。その後の複雑な歴史はともかく,一定の民主化は進むものの,OECD加盟国となり一人当たりGDPが1万ドルに近づいている現在も「部分的に自由」な体制にとどまっています。 メキシコも一人当たりGDPが1万ドルを超えているOECD加盟国ですが,もう少し自由度が高く,「部分的に自由」な体制と「自由」な体制を行き来▲ ホーチミンの通勤風景日本と似た点がありながら,政治体制の異なる国々日本の隣国の一つベトナム会問題を解決する公共政策を学びたいと眼を輝かせています。実際,公共政策が必要とされています。道路にはバイクが川の流れのように一日中溢れかえり,歩行者は横断もままならず,水も大気も汚れ,環境問題も深刻です。 他方で,現実の政治体制の違いも明確です。自由な選挙や人権と市民社会という言葉はタブーではないものの,公然たる批判を許容しない共産党の一党支配である事実は,隣の中国と同様です。外国からみる日本の政治ーベトナムから考える14 社会科NAVI 2018 v ol.18