ブックタイトル社会科NAVI Vol.19
- ページ
- 13/20
このページは 社会科NAVI Vol.19 の電子ブックに掲載されている13ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「ブックを開く」ボタンをクリックすると今すぐブックを開きます。
このページは 社会科NAVI Vol.19 の電子ブックに掲載されている13ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「ブックを開く」ボタンをクリックすると今すぐブックを開きます。
社会科NAVI Vol.19
▲ ④与よ助すけ尾お根ね遺跡の復元された竪穴住居(茅野市縄文考古館提供)●守矢 昌文(もりや まさふみ)専門分野/日本考古学 昭和 61(1986)年,縄文時代中期の大規模な拠 主要著書/『国宝土偶「仮面の女神」の復元』(新泉社,2017年)「縄文のビーナス」・「仮面の女神」の発見その装飾等から縄文時代の服飾について論じたものもあり,現在でも「遮しゃ光こう器き」の名称にその名残がみられる。 それ以降土偶研究はより進化し,形態分類による土偶への名称付け(例えば「遮光器土偶」「ミミズク土偶」などの分類)や,地域性や時期差が整理され,土偶編年が組み立てられていった。 昭和55 ~ 56(1980 ~ 81)年に山梨県甲州市・笛吹市にまたがる釈迦堂遺跡群の発掘調査で1116点にも及ぶ大量の縄文時代中期の土偶が,壊された状態で出土した。小~中型土偶は故意に破壊され,廃棄することに意義があるのではないかとの見解は従来から示されていたが,この事例により,土偶=壊されるものとの認識がより高まった。また,詳細な出土土偶の観察から,土偶も壊しやすいように,手足・胴部・頭部の各パーツを組み立てるような構造であることが注目された。点的集落である,長野県茅ち野の市棚たな畑ばたけ遺跡が発掘調査され,竪穴住居に囲まれた集落中央に作られた穴の中に,横たえられたような形で縄文時代中期の土偶が出土した[①]。土偶が穴の中に埋置された状況で把握できた事例は稀有で,ほぼ完全で高さ27㎝と大型,そして,妊婦像をあらわす大きな腹部・臀部表現と人肌のように磨き込んだその姿は,「縄文のビーナス」[②]と呼ぶにふさわしい優品で,これが遺構から発見されること自体が土偶研究の大きな画期であった。 また平成12(2000)年,長野県茅野市中ッ原遺跡から縄文時代後期の墓に副葬されたような形で,高さ36㎝の完形大型土偶「仮面の女神」[③]が出土し,土偶と埋葬の関連性が明らかになった。 これらの事例から,出土事例は希少ではあるが大型・完形で,丹念に制作され副葬などのマツリに関わる土偶と,小~中型土偶のように壊し,廃棄されるマツリに関わる土偶の存在が考えられる。土偶と一様に括られたものが,時期・地域,複雑な縄文時代の社会やマツリなどを反映した,多岐に亘る姿であることがわかったが,まだその実態は謎に包まれている。 土偶は縄文人の願いと想いが詰まった人形の創造物と言えるが,その造形は考古資料としての価値だけではなく近年,癒しのキャラクターや原始造形としての面白さにも注目を浴びている遺物でもある。▲ ③土偶「仮面の女神」(茅野市所蔵・茅野市縄文考古館保管)国宝社会科NAVI 2018 v ol.19 13