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概要

社会科NAVI Vol.19

「主権者教育」の授業例と,弁護士の役割法教育・主権者教育における弁護士の役割と,学校教育との連携▲ 弁護士による劇のようす▲ 劇に関する授業(グループディスカッションをした後の発表) 昨今,「主権者教育」の必要性が叫ばれる中で,法教育こそがその中核だとの考えから,ジュニア・ロースクールでも近年はこの主権者教育の分野(公法的領域)に注力している(筆者は,「市民性教育(シティズンシップ教育)」と呼ぶのが望ましいと考えるが,ここでは一般化した「主権者教育」を用いる)。 その筆頭が,「アリとキリギリス」を素材とした立憲民主主義の授業である。女王アリが専断してきた社会に議論が沸き起こるというオリジナルな展開を加えた。アリ社会における意思決定は,誰がどのように行うべきなのか? 多数決で決めたことが一部の人を不当に虐げることになるときも,その多数決の結果は,正しい法として守るべきものなのか? こうした問いを重ねていく中で,多数決によっても侵されるべきでない人権の意義に気づかせ,憲法による人権保障の必要性(立憲主義)の本質を理解させる授業である。 中学校公民の憲法の授業に「アリとキリギリス」を組み込んだ実践例は,日本弁護士連合会・人権擁護大会(2016 年10 月・福井市)で発表された。さらにこの授業が全国紙などで紹介されたことも重なって,広く関心が寄せられるに至り,今では全国各地の弁護士会の行事や学校授業で活用されている。 このほか「ヤマタノオロチ」を素材にした授業では,統治機構の理解や考察を深めた。ヤマタノオロチを追い払った後の無秩序の状態から,村人たちがどのような統治機構を定めるかを考えるものである。 さらに,「はだかの王様」を素材にした授業では,民主制における表現の自由の重要性と,その保障の在り方を議論した。 主権者教育は,正解の無い社会課題について,市民が主体的に考察・議論し,投票その他の行動につなげるスキルや意欲を育むものである。これは法教育そのものであるし,特に弁護士は立憲主義・憲法の価値や考え方を修得した専門家として,学校教育における役割が期待されているものと自覚している。 福井弁護士会は,ジュニア・ロースクールの授業を,そのまま学校などの出前授業にも活用している。 また,法教育等における弁護士の役割と言うと,授業者やゲストティーチャーとしての役割を想起しがちであるが,教師が授業づくりを行う段階での連携・協力も重要である。今後,学校現場で法教育・主権者教育が広がっていくことが予想されるが,現実的には,弁護士が全ての教室に立つというわけにはいかない。やはり教師こそが,法教育・主権者教育の授業の主体であるべきなのである。 福井弁護士会としては,そのビジョンを頭に置きながら,法教育等における弁護士の役割の多角化・多様化を目指すことになっていくだろう。 ジュニア・ロースクールにおいても,ただイベント的に授業を行うのではなく,学校での実用性が一層高い法教育授業を提案していく必要がある。※関連書籍:福井県法教育推進協議会『法教育のフロンティア』(日本文教出版,2016 年)社会科NAVI 2018 v ol.19 15