ブックタイトル社会科NAVI Vol.20
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社会科NAVI Vol.20
さて,こうしたアジアに重心を移す世界と人々のよきあり方をめざす動きの中で,日本の政治はどのような意義をもつのでしょうか。 極端な例をあげましょう。前にも触れたフリーダムハウスによれば世界で最も自由のない国家は現時点では北朝鮮ですが,それに次いで自由のない国家がトルクメニスタンです。写真は首都アシガバードの官庁街,大理石でできた素晴らしい宮殿ビルが立ち並んでいますが,人の気配はありません。これとよく似た素晴らしい高層ビル群を中国の各地で見かけますが,鬼城(中国語で「鬼」は幽霊を意味します)と呼ばれるゴーストタウンになっている地域もたくさんあります。綺麗なビルが海岸に立ち並ぶ様子は南アフリカ・ダーバンでも見かけましたが,犯罪率が高くて外国人は出歩くこともできません。結局,人々のよきあり方は高層ビル群に象徴される「発展」が保証するものではないということです。 アジア,特に中国のソーシャルイノベーションが注目するのは,日本の市民社会のしくみです。とりわけ高齢社会を維持させているしくみです。欧米と異なり,アジアの高齢化は急速なスピードで進んでいるという共通点があります。欧米諸国では65歳以上人口が7%から14%となるのに数十 日本の政治には,世界からみれば,いくつもの不思議があります。 欧米からは,なぜ政権交代が少ないか,なぜ一つの政党,自由民主党が強いのか,が不思議であり,他方でアジアからは,なぜ自由で民主主義的なしくみが安定して機能し,公正な選挙や政治活動が営まれているか,が不思議です。また,度重なる自然災害にも関わらず,なぜ日本の社会は頑強か,人々は震災に直面しても協力し合いパニックを起こさないのか,このことも不思議です。実は,こうした多くの不思議は,日本の市民社会と政治の関係に原因があるのです。この連載で触れてきた,日本の豊かな草の根の組織,人々の集団生活は,民主主義を体現するとともに,ある時は保守的に,あるときは協力的に日本のソーシャルキャピタルを育んでいます。 日本の市民社会のあり方もこの20年で大きく変化しています。そうしたなかでも,海外の若者は日本の漫画やアニメやドラマから日本の魅力を感じています。少し前に流行した映画「君の名は」は海外でも公開されましたが,そこには日本の市民社会,生活が細部まで描かれています。アジアに重心を移す21世紀においてこそ,日本の市民社会と政治は,世界から期待されており,人々のよきありかたに欧米とは異なる大きなモデルを提供することが可能なのです。●辻中 豊(つじなか ゆたか)専門分野/政治学主要著書/『大震災に学ぶ社会科学 第1 巻 政治過程と政策』(東洋経済新報社,2016 年),『現代日本のNPO 政治―市民社会の新局面( 現代市民社会叢書)』(木鐸社,2012 年),『利益集団(現代政治学叢書)』(東京大学出版会,1988年),日本文教出版『中学社会』教科書著者日本の高齢社会を世界は注目する日本政治の不思議ですが,中国や東南アジアではもう普通に使われています。このほか,バングラデシュから出発したマイクロファイナンスや,日本でも浸透しつつあるフェアトレードが分かりやすい例です。 ソーシャルイノベーションは,日本では,社会起業家,社会的投資,技術革新(第4次産業革命,IoT,ビッグデータ,AI等)の社会制度への応用と結び付けてとらえることが多いようです。しかし,世界では,もっと広く福祉国家,教育制度,健康保険,環境運動,公民権運動,フェミニズム,インターネット,さらには,国立公園,世界遺産,NPO,地方分権,地域医療・介護システム,コミュニティ制度まで,あらゆる社会のしくみの革新,それによる社会的課題の解決を意味するようになっています。年要したのに対し,日本,中国,韓国,シンガポールなどはいずれも25年以内に到達しています。それゆえ高齢社会を支えるしくみは,欧米とは異ならざるをえず,世界から日本のしくみが注目されています。社会科NAVI 2018 v ol.20 19