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概要

社会科NAVI Vol.20

● 問い合わせ先近畿大学水産研究所本部(白浜実験場)〒649-2211 和歌山県西牟婁郡白浜町3153TEL :0739-42-2625FAX: 0739-42-2634URL: http://www.flku.jp/出荷出荷天然幼魚親魚養成3~5年以上親魚養成30~35日全長6~8cm全長30cm沖出し後約60日海上網生簀飼育養殖養殖人工種苗(幼魚)完全養殖サイクル3~4年3~5年産卵卵ふ化陸上タンク出荷 魚類養殖を継続的に営むためには,養殖種苗が安定的に確保できることが必須である。現在,国内で養注目される完全養殖? クロマグロの産卵と採卵作業中  の学生(串本町・大島実験場)▲ クロマグロの完全養殖サイクルの模式図殖されている魚種の多くは人工種苗を利用した養殖であるが,ウナギを筆頭にクロマグロ,ブリ,カンパチなど一部の魚種では漁獲した天然種苗を利用している。この中で日本固有種であるブリは天然資源の状態が良く,天然資源の一部を養殖へ利用しても資源に影響するほどではない。しかし,近年資源量の減少が懸念されているウナギやクロマグロなどでは,天然資源の利用が大きな問題となっている。 近年,水産物においても資源の持続的な利用と安全性,トレーサビリティについての議論や活動が注目され,その活動は世界的に広かし,クロマグロはさらに高いレベルの技術を必要とする魚種であった。特に,ふ化後10 日目までの生残率が低く約10%,全長6 cm(ふ化後30 日頃)で0.2%,ヨコワサイズの全長30 cm(ふ化後約3 か月)で0.04%であった。種苗生産期における大きな減げん耗こう要因として,ふ化後初期の浮上死と沈降死,次いで共食い(餌と認識して攻撃する行動も含む),衝突死があげられる。 これらの減耗要因の防除法について研究が進み,現在では30 cmサイズで1.5%にまで生残率が改善された。しかし,マダイなどの40~ 50%に比べると著しく低く,さらなる技術開発を必要としている。 1995(平成7),1996(平成8)年に生産した種苗が2002(平成14)年には7,6 歳に達し,同じ生簀内に計20 尾を養成していた。この親魚群が同年6 月23 日に産卵した。4,510 尾をヨコワサイズにまで育てることに成功し,完全養殖が世界で初めて達成された瞬間であった。そして,2004(平成16)年には完全養殖魚として初出荷している。 近年ではヨコワサイズで10 万尾以上の種苗を生産し,種苗の販売も行っている。がっている。 「完全養殖」は人工種苗を親とする種苗を利用した養殖であることから,天然種苗に依存しない。また,親魚から養殖魚までの飼育経過を完全に記録することができる。つまり,持続可能性・トレーサビリティ・安全性を備えていることを証明することが可能なのである。このことから,持続的養殖の将来に向けて完全養殖は注目されている。※ヨコワ…クロマグロの若魚のことで, 関西での呼 び名。 関東では「メジ」と呼ぶ。社会科NAVI 2018 v ol.20 21